今季メジャー初昇格を果たし、来季メジャー契約となったカブス・和田毅。海を渡り夢の世界に飛び込むもトミー・ジョン手術を受け、過酷なリハビリを耐え、念願のメジャー・リーガーになった和田を、野球評論家の荒木大輔氏が直撃した。対談場所は和田がアドバザリー契約を結ぶアディダスジャパン社で行われた。日本では西武の投手コーチとソフトバンクのエースとして対戦した間柄だが、メジャーでの苦悩と喜びなどを和田が荒木氏に打ち明けた。 構成=椎屋博幸、阿部ちはる 写真=川口洋邦(インタビュー)、GettyImages 取材協力=アディダスジャパン メジャー初マウンドはマイナス思考がほとんど
荒木 メジャーに行く前だよね、最後に会ったのは。
和田 はい。3年前だと思います。
荒木 そうか。その間いろいろあったね。今年のメジャー初登板(7月8日レッズ戦)でも勝っていてマウンドを降りた後に逆転負けだったりしたしね。
和田 5回1失点で降板して、最後逆転負けでした。
荒木 別のメジャー中継の実況しながら、状況を見て勝ってほしいと願っていたから印象深いよ。実際にメジャー初登板はどんな気持ちだったんだろう。
和田 もっと早くマウンドに上がっていなければいけなったので、いろいろな感情がマウンドの上ではありました。もちろんうれしいのですが、これだけ時間がかかってしまったなという申し訳ない気持ちと……この試合で失敗したら、もうメジャーでは投げられないなというマイナス思考のプレッシャーがありました。
荒木 そこまでの厳しいプレッシャーは日本で味わったことないんじゃない?
和田 そうですね。日本のときはそこまで考えたことはなかったですね。

初のメジャーのマウンドはうれしさもあり、打たれたら次はないかも、というプレシャーもあった
荒木 冷静になり大丈夫だな、と思い始めたのはいつぐらいかな。
和田 オリオールズ戦で4勝目を挙げ、ようやく、という感じでしたね。それまでは次の登板の日を明確に言われなかったので、非常に不安でした。投げ終わって結果を残し、次また投げられるかも、という繰り返し。4勝目を挙げた後、投手コーチに呼ばれ「この日とこの日と……」と最後まで登板日を教えてもらったときに初めて「最後までメジャーで投げられる」と思い、切羽詰まった状況を抜け出すことができました。
荒木 西武の投手コーチ時代に和田の地位を見ていたから、考えられないね。そこまでの厳しい経験をしたんだ。
和田 今季はマイナー契約でしたし、代わりの若い選手はいくらでもいます。チームも早い段階で最下位だったので、余計に来季以降を見据えて若手を思い切って使える状況でもありました。チャンスはもらえますけど、チャンスは少ないという状況で、必死でしたね。
荒木 いまだから言えるかもしれないけどいい経験をしたよね。
和田 でも、もう二度としたくない経験です(笑)。ただ、同じような境遇にいる選手たちの気持ちは本当に分かります。
荒木 日本人選手がメジャーに行くときは多くの場合、良い契約で行くしね。ただ和田の場合は、ケガがあったからね。
和田 メジャー契約とマイナー契約では天と地との差がありますし、それを経験しました。日本の実績はまったく関係ないことも分かりました。
苦手なコースに投げてもホームランにする打者たち
荒木 トミー・ジョン手術を受けた後のヒジの感覚はどういう感じだったんだろう。
和田 最初は投げるときに力が入らないという状況でした。頭の中で怖がっていたりした部分もありました。あとは
松坂大輔に「投げてもヒジが張ってきたりするし、また切れているんじゃないかな、と思ってしまうくらい痛かったり……」と聞き、実際そういう経験をしました。でも「そこは通る道だ」とトレーナーに言われましたね。本当にすごく痛かったですからね。僕はこのヒジを以前よりいいヒジに戻そうと思って手術を受けたので克服することができました。11年のときよりいい感じにはなっています。
荒木 その後、復帰して中4日で投げていく間隔に違和感はなかった。
和田 中4日だと休む感覚がないですね。日本のときは120球以上投げて中6日。ただ100球前後で中4日だと行けると思いますので違和感はないです。
荒木 一方で日米の打者の違いを感じる部分はある?
和田 日本の打者は、このコースに投げていればホームランはない、という感覚で投げていたんですが、メジャーの打者は、そこに投げてもホームランにされます。ヒットならOKなのですがホームランにされるから厄介です。芯に当てる能力が高いからこそツーシームに打者が手を出してくれるんだと思います。
荒木 そのツーシームはもう覚えた?
和田 新しい球種を覚えるのは得意ではないので、時間をかけて覚えました。
荒木 では強烈に印象に残っている打者はいるかな。
和田 ブリュワーズのゴメスですね。一番打者なのに、バットを振り回してくる。ソフトバンクの柳田(悠岐)の右打者バージョンですね。2度目の対決ではバックスクリーン横に大きな本塁打を打たれました。
荒木 そんな打者いるんだね。では、印象に残っている投手は?
和田 ドジャースの
クレイトン・カーショウとジャイアンツのマディソン・バムガーナー。2人とも左投手で、僕とはまったく違うパワーピッチャーなので印象に残ります。カーショウの調子が悪いときを見たんですが、点は取られてもバンバン三振も取るという感じだったので「調子が悪くてこれか」と思いましたね。
体の疲れを軽減するためにできることはすべて試す
荒木 そういう厳しい世界で勝つためにはギアなどにも気を使っているのかな。スパイクはメジャー仕様?
和田 はい。マウンドが固いので、それを考慮して来年のモデルも作って。メジャーのマウンドでもカブスやカージナルスのマウンドはさらに固いので、そういう流れになりました。
荒木 歯は球場によって変えない?
和田 変えないです。その代わりソールの厚さを変えました。歯の位置はやや外側に付けています。マウンドが固いので、軸足1本で立ったときに、ブレないようにしっかり土をつかむためにそうしています。あと歯の長いモノは苦手なのでメーカーさんに削ってもらいました。
荒木 そういう感覚を持つのは大事。
和田 メジャーのマウンドだと足裏に突き上げられる感じがするんです。それが徐々に疲労として蓄積されていきます。それを少しでも軽減できれば体を守れると思っているんです。だからクッション材を多めに入れてもらったりしています。少し重くはなっていますが、ダメージを抑えて体を守りたいです。
荒木 やはりケガと向き合ったからこそ、体に対する考え方が深くなったんじゃないの。
和田 そうですね。投げられないのはつらいですからね。ギアでカバーできるところはカバーしたいです。
荒木 グラブはどう?
和田 ずっと変わらず、小さくてポケットの深いモノを使っています。やはりスパイクの方がよりこだわりが強いです。
荒木 その中で、日本で学んだことがメジャーで役立ったことはある?
和田 低めに投げるということですね。メジャーでは球数を少なくしなければいけないので、その意味でも低めに投げるコントロールというのは、今役立っていると思います。あとは根気です。
荒木 なるほど。一方、マイナーで学んだことは何があるだろう。
和田 ハングリーさですね。1Aから這い上がってきた選手たちにとって、FAでポッと入ってきた日本人選手は面白くないはず。その彼らを納得させるには結果を残さないといけない。彼らのメジャーに対する執着心を学びました。
荒木 マイナーの経験もいい勉強になったね。
和田 それは間違いない。ものすごく良い経験をしたと思っています。
荒木 来年は先発としてメジャーのマウンドに上がるけど、何がまだ足りないのか教えてほしいんだよね。
和田 手術後初めて、マイナー、メジャー合わせて1年間、中4、5日で1年間投げたんです。そこで9月に入って肩が疲れ、体も疲れてしまったので、もっと肩のトレーニングを見直し、強化していきたい。体全体の体力向上を目指していきたいです。
荒木 メジャーはシーズンが長いからトータルで体の状態を維持しなければいけないよね。難しいし、和田の立場的には最初から結果を残さないといけないしね。
和田 そうなんです。今年よりは少し融通は利く、1回悪くても次は大丈夫という感じはあると思いますが、厳しい状況にあるのは間違いないです。1年1年が勝負ですね。
荒木 もちろん先発ローテションでずっと投げたいよね。
和田 今年ようやくつかんだものですし、簡単に手放したくないです。
メジャーが見た侍ジャパン
荒木 日米野球の話も聞きたいんだけど、和田自身は調子悪かったね。
和田 ぜんぜんダメでした。疲れが抜けていませんでした。
荒木 それは仕方ないよね、1年間戦った後だから。ところで気になった日本人選手はいた?
和田 大谷(翔平)君です。常時155キロ以上というのはすごいですよ。初めて生で見て「本当に速いんだ」と思いましたね。投げる方も打つ方もいいという選手はなかなかいないですよね。
荒木 しかも彼の場合は、打者として打たないときは、チームの打線に大きな影響を与えるんだよ。それくらい重要な打者でもある。少しは話題になった?
和田 なっていました。ブルペンの画面はキロ表示でしたから、みんな僕に「今の何マイル?」って聞くんですよ。そのたびに計算して(笑)。「何歳なんだ?」「メジャーに興味あるのか?」と聞かれて……答えていたんですが、最後は「来なくていい」という会話もありました。彼らにとってはライバルになりますからね。そのほかには牧田(和久)ですね。あの投げ方とスローボールに「アンビリーバボー!」と言っていました。あとは柳田のフルスイングの空振りを見て、笑ったりしていましたね。

メジャー選手も大谷のその真っすぐに注目した
PROFILE 
わだ・つよし●1981年2月21日生まれ。島根県出身。左投左打。浜田高から早大を経て03年自由獲得枠でダイエー[現ソフトバンク]に入団。1年目から先発で活躍し新人王を獲得。チームの中心選手として活躍し12年にFAでオリオールズに移籍した。その年に左ヒジのトミー・ジョン手術を受け、13年オフにFAに。14年はカブスとマイナー契約を結び、7月8日にメジャー昇格初先発を果たした。15年もカブスとメジャー契約を果たした。14年の成績は13試合に登板し4勝4敗0セーブ、防御率3.25。

あらき・だいすけ●1964年5月6日生まれ。東京都出身。右投右打。早実高1年時に甲子園で決勝進出。その大会から春夏5季連続甲子園出場を果たし、大ちゃんフィーバーを巻き起こす。83年ドラフト1位でヤクルト入団。86年に2ケタ勝利をマーク。89年よりヒジの故障などで3年間投げられなかったが93年に復活して8勝96年に横浜へ移り、同年限りで引退。西武、ヤクルトでコーチを歴任し、14年からは評論家として精力的に活動している。