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吉見一起 復活ロードを歩み始めた竜のエース

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4月1日巨人戦(ナゴヤドーム)で6回無失点と好投し、2年ぶり白星を挙げた吉見


開幕前の下馬評では苦戦が予想されていた中日。だが、この男に完全復活の予感が漂ってきたことで、その評価も再考が必要になってくるかもしれない。竜のエースが長い雌伏のときを経て、復活ロードを歩み始めた
文=吉見淳司、写真=内田孝治

やっと抜けたトンネル


 708日間の暗闇を、竜のエースがようやく振り切った。

 4月1日の巨人戦(ナゴヤドーム)、開幕5戦目のマウンドに上がったのは中日・吉見一起。2008年から12年まで5年連続で2ケタ勝利を挙げ、“強い”中日を支えてきた絶対的な支柱。だが、順風満帆だったキャリアは13年に一変した。

 右ヒジ痛による二度の登録抹消の末、6月にトミー・ジョン手術を受けた。残るシーズンをリハビリに充てて翌年の再起に懸けたが、14年も3試合で0勝1敗、防御率4.20と全盛期とは程遠い内容に終わった。

 エースの不在はチーム成績にも大きく響いた。13年、14年と4位に沈み、28年ぶりとなる屈辱の2年連続Bクラス。山井大介大野雄大の奮闘はあったものの、「吉見さえ万全なら……」と何度もシーズン中に思わされた。

「今までと同じではダメ。結果を残さないと地位も名前も消える」。昨オフの契約更改で発した言葉が、今季に懸ける悲壮な覚悟を物語っていた。

エースの役割を果たす


後輩・大野が作った良い流れを受け継ぎ、エースとしての存在感を示した



 迎えた自身のシーズン初登板。前日には吉見を「すべてのお手本」と慕う次期エース候補の大野が7回1失点と好投し、チームに今季初勝利をもたらしていた。

 後輩が引き寄せた良い流れを手放すわけにはいかない。緊張もあった中での初球は、坂本勇人から外角低めの142キロの直球でストライクを奪った。

「試合が始まったら集中できた」 小気味いい投球で初回を三者凡退に抑えると、その裏、先頭打者の大島洋平が相手先発の大竹寛からいきなり三塁打。さらに続く亀澤恭平も左前打で続き、わずか6球で先制点を奪った。吉見は2回、3回と先頭打者に安打を許すものの、ともに投手併殺打に打たせて取るなど巨人打線を手玉に取る。6回まで72球という快投で、打者19人を被安打2、5奪三振、1四球と付け入るスキを与えなかった。その好投にけん引されるように打線も活性化。今季最多となる9得点でバックアップした。

 結局、9対0と昨季のリーグ覇者を圧倒。お立ち台にはもちろん、2年ぶりの勝ち星をつかんだ吉見の姿があった。「本当に我慢してよかった。こうやって健康で野球ができることに感謝してきた結果だと思います。野手の皆さんが効率よく点を取ってくれたので、楽しく、攻める気持ちを持って投げられた。勝ち負けはコントロールできないので、今を楽しもうと思ってマウンドに上がった」

 そこに涙はない。終始穏やかな笑顔を浮かべていたのは、確かな手応えを得たからだろう。

 谷繁元信監督兼選手も、その活躍に目を細めた。

「吉見らしい投球を久びさに見せてもらった。試合前に選手会長(大島)が、『今日は何とか全員で援護しよう』と話していた」と、チームにもたらした好影響を明かしたが、開幕3連敗を喫したチームが6連勝で一気に巻き返したのも、吉見の復活劇があったからこそだろう。

 その影響力の大きさは、まさに“エース”としての存在感を示していた。

初回に決勝適時打を放った亀澤(左)とお立ち台に。打線が9得点と爆発したのも、吉見の好投があったからこそだ



復活ロードはこれから


 だが、まだ完全復活を果たしたわけではない。翌日には大事を取って登録を抹消。シーズンを通して登板するための措置だが、順調ならば徐々に登板間隔を詰め、最終的にはもちろん先発ローテーションに復帰する予定だ。

「最初は無理をさせない。1年間やってもらわないといけないからね」 谷繁監督兼選手も時間がかかることは想定済みだ。さまざまな思いを背負いながら、一歩ずつゆっくりと、エースはかつての輝きを取り戻していく。

「反省するとこは反省して、この白星を自信にして、次も頑張ります。マウンドに上がる時の大歓声ビックリしました。感謝です」

 日付が変わった翌2日の深夜3時近く、吉見は自身のブログにファンへの思いを書き残した。 お立ち台では抑えていた興奮が、試合の疲れを吹き飛ばしていた。

精密機械のような抜群のコントロールは健在。ムダなボールを抑え、リズムを作った



PROFILE
よしみ・かずき●右投右打。182㎝91㎏。1984年9月19日生まれ。京都府出身。金光大阪高-トヨタ自動車-中日06年希望枠。15年成績:1試合登板1勝0敗0H0S、防御率0.00

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