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選手の肖像インタビュー

阪神・糸原健斗インタビュー やるべきことをしっかり 「ヒットは狙うが、それが進塁打となっても“最高の仕事”になる」

 

まばゆい輝きを放っている選手たちの“今”を切り取る不定期連載インタビュー。第5回に登場するのは矢野燿大新監督の下、入団3年目ながら主将を務めている糸原健斗。「二塁・二番」としてチームの勝利のために、自己犠牲もいとわずまい進している。
取材・構成=椎屋博幸 写真=佐藤真一(インタビュー)、BBM


バッテリーのイヤなことをする


 前半戦から後半戦スタートにかけて6連敗を喫していた中での7月20日のヤクルト戦(甲子園)。1点差を追う8回裏一死二塁の場面で打席に入った糸原。2球目、141キロのカットボールをたたくと、打球はセンター前へ。二塁走者の近本光司が同点のホームを踏んだ。その後1点を奪うも9回土壇場で追いつかれたが、最後は9回裏に近本のサヨナラ犠飛で連敗を止めた。この試合は、糸原の気迫あふれる同点打があったからこそ、勝利をつかむことができたのだ。

 8回の同点ヒットは自分の中でよかったと思っています。あの打席は一死二塁で最低限、進塁打でもいい場面でしたが、同点にしたいなとタイムリーを狙っていました。二塁走者には一番の近本(近本光司)が二塁打で出塁していた。この場合では、近本は足が速い選手なのでどんな形であってもヒットさえ打てば、必ずかえってきてくれるだろう、と。だからこそ、自分のタイミングで打とうという気持ちで打席に立っていました。

 この試合の中では、二番打者として、近本が塁に出たときなど、何としても右方向へ打っていこうなどという考えはまったくありませんでした。ここまで連敗中でしたので自分が絶対決めてやる、という気持ちで開き直って打席に入っていきました。そこで、しっかりと同点タイムリーを打てたことはよかったです。

攻守走すべてにおいて気持ちを込めてプレーする[左]


 今年はドラフト1位の近本、同3位の木浪聖也が開幕スタメンで起用され、一、二番を形成した。だが木浪がプロのカベにぶち当たり、昨年までその打順を務めていた糸原が開幕9試合目で二番に戻った。昨年まで同じような役割を担ったことで、今季もやることは明確となっている。

 今年の開幕時は、下位打線でのスタートでした。4月途中から二番に入りましたが、昨年も一、二番を打っていたので戻ったときには、自分の仕事が明確になったな、というのはありました。

 今年は一番に足の速いルーキーの近本が入っています。彼は足が速いし、ここまで20盗塁をしていますので、当然相手投手もその足を警戒してきています。その足を警戒するということは、僕の打席では、自然と真っすぐが多くなっていきます。その中で、近本が走るまでバットを振らずにじっと待つというようなことはしていないんです。

 もちろん、一、二番との関係において、2人でいろいろなことを話し合っています。しかし、近本からは「初球からでも狙って打っていってください」と言われています。一方で僕も「1球目から走れそうだったら、どんどん初球から走ってもいいよ」とは話していますね。そこの部分を含めていろいろとコミュニケーションを取りながらやっています。

 もちろん、近本が塁に出ることで、そのときの状況を見ながら打席の中でさまざまなことを考えることが多くなるのは事実です。そういうことを総合しても、近本の足を防ぐための真っすぐが必然的に多くなるので、その真っすぐをしっかりとらえていきたいという気持ちで毎回、打席に立っています。


二番打者は出塁率が一番大事


 昨季は打率.286と二番打者としては十分な働きを見せたが、今季は2割6分台。しかし、出塁率に関してはリーグ15位の.3608でセ・リーグの二番打者では巨人坂本勇人DeNA筒香嘉智中日大島洋平などにも引けをとらない成績で粘り強さを見せている。そこには今季、足を生かした一番打者がいることが大きな要因になっている。

 僕の中で二番打者として重要だと考えていること、それは「出塁率」だと思っています。これが二番の仕事だとも思っていますので、とにかく、そのことが一番大事なことだという意識でやっています(出塁率はリーグ15位)。もちろん数字において満足することはないです。でも、今の打率でいえば2割6分という成績だからこそ、打つ以外で必ず何かできることがあると思っています。今年から、キャプテンという立場でもあるので、チームプレーはしっかりやっていきたいですし、やっているつもりです。そういうチームバッティングなどが最後に自分にも結果として返ってくると思いますので、しっかりやっていきたいです。やはりチームが勝つことが一番ですから。

 まずチームが勝つこが重要で、自分の成績が一番ということは思ったこともないですし、ヒットを打つことだけが成績に反映されるということではないです。進塁打を打つことで、それが点につながり、勝利につながることが一番うれしいですから。

 二番打者として粘りの打撃を見せている糸原だが、四球の数はリーグ7位タイの47を数える。自信のある選球眼を生かし、打線を本物の線とするつなぎ役に徹しているのだ。

 二番打者として、四球での出塁ということも重要なことだと思っています。相手バッテリーが、二番打者を四球で出してしまった場合、クリーンアップにつなげてしまうことになります。それは投手としてすごくイヤなことだと思うので、ヒットが出にくいような投球をされた場合には、何とか粘って四球で出塁するということをやるのが仕事だと思っていますし、そうならないと出塁率も上がってこないと思います。ただ四球で出塁するというのも、そう簡単なことではないですよ。

 やはり、ボール球に手を出してしまったりすると四球にもならないですし、ヒットにもならないですよね。そのためにも「選球眼」というのはすごく大事なことだという認識はしています。それが僕のプレーの持ち味だと思っていますので、しっかりと二番としてやっていきたいと思いますね。

 近本が一塁に出ることだけでも相手バッテリーはすごくイヤなはずなのに、そこに二番で僕が打席に入って、もっとイヤがられるような打撃ができればいいかなと思っています。

 もちろん、打者として打ち取られたくはないのでヒットは打ちたいですが、それが進塁打になった場合には「最高の仕事」になると思っています。自分を犠牲にして1点を取れるならそれが僕の仕事だと思っていますので、常にそこを意識しています。やはり、アウトにならずに三番につなぐことが一番いい内容なのですが、とにかく相手がイヤがる打撃をしていくことが、その後につながっていく……、そのことだけを考えています。

主将だからと気負わない


 昨季の秋季キャンプ終盤に矢野監督から主将に指名された。阪神では史上最年少26歳でのキャプテンとなった。だが、そこは気負わず、普段どおりの所作でプレーし続けている。入団時から変わらない野球に厳しく真摯(しんし)に取り組む姿勢を見せていくことでチームをけん引している。

 今年からキャプテンを任せられることになりましたが、自分としては意識的に何も変わったことはありません。周りがそういうふうに思っているだけだと思います。僕自身、この世界で生きていく中で、小技を生かし、自分を犠牲にしてプレーをするというのが特長だと思っています。それをやっているだけなので、キャプテンだからそういうことを考えてやっているということではないです。

 そして、試合の中では自分が与えられたプレーをするだけなので「キャプテンだからオレが引っぱる」ということもまずないですね。毎試合、当たり前のことを当たり前にやるだけですしね。それを周囲がどう思うかは、周囲が決めることです。

 プレーの話でいえば、塁間を全力疾走したり、守備では球際でがむしゃらに食らいつくプレーをすることはプロ野球選手としても当たり前ですし、そういうプレーをすることでチームが盛り上がっていけばいい。そのプレーの積み重ねが、勝利に導くことにつながっていくと思いますね。

試合前練習でしっかりと体の調子を整え、試合で全力を尽くせる準備は怠らない


 僕はスタメンで出場することが多いのですが、ベンチで試合を見守る選手というのはすごく悔しい思い、試合に出たいという気持ちでいると思います。そういう中でも、ベンチでいい雰囲気を作ってくれて、チーム全体を盛り上げてくれているので、チームが一つになって戦っているな、と思います。打席に立っていても、背中にそういう雰囲気を感じ、守っていてもそういうことは感じています。

 今年は何度かベンチスタートのときもあるのですが、そういうときはベンチの中で自分ができることを精いっぱいやっているつもりです。やはり試合に出られないのは悔しいですよ。でも、矢野(矢野燿大監督)さんが言うようにファンを喜ばせるために試合に出ても、出ていないときでも、しっかりやっていくだけです。シーズン143も試合があれば、すべて勝てるというのではなく苦しい時期もある。連敗をしてしまったら、その分を連勝できるように頑張っていく。そういう気持ちでみんなやっていますので。

糸原[左]はファンを喜ばせるためにチームの勝利のためにプレーする


 その中で、いつもどおりヒットを打てば、ガッツポーズはしていきます。残り試合が少ないからと何かを大きく変えていくということはないですし、チームも強い気持ちを出していくことで、いい雰囲気で来ていますので、シーズン最後まで続けていきたいと思います。何度も言いますが、僕たちは「ファンを喜ばせるため」に自分ができることをしっかりやり、チーム一丸で戦っていくだけです。残り50試合を切りましたが、その中でとにかくそれらのことを継続していくだけです。


PROFILE
いとはら・けんと●1992年11月11日生まれ。島根県出身。175cm77kg。右投左打。開星高、明大からJX-ENEOSを経て2017年ドラフト5位で阪神に入団。1年目から強いスイングで一軍入りを果たし、昨年はチームで唯一の全試合出場を果たした。今季は矢野監督から史上最少ながら主将に。まずは自分のプレーをこなしながら、明るくチームを引っ張っている。
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