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野球酒場2019

野球酒場2019 「伝説の名勝負」を堪能できる高校野球ファンの人気スポット『baseball park たっちあっぷ』

 

奇跡のバックホーム。1996年夏の甲子園決勝(松山商高-熊本工高)は20年以上が経過した現在も、名場面として語り継がれている。タッチアップした熊本工高の三塁走者が店主。高校野球を通じて、人と人の輪が広がっている。(一部文中敬称略)
取材・構成=岡本朋祐、写真=BBM

エレベーターを上がると、すぐに店舗入り口。奥行きがないため、カメラで撮ると、このような構図に


 本来は実際に店へ足を運んでから感動を味わってほしかった。だが、店主の写真(上)の構図がやや不自然なため、説明が必要になる。熊本市内の繁華街中心部、ビルの最上階に構えるbaseball park「たっちあっぷ」。エレベーターを上がり、扉が開くと、1996年夏の甲子園決勝の案内板が目に入ってくる。

 現地で観戦したことがあるファンならば分かるだろう。球場正面に設置してあるボードがリアルに再現されている。降りれば、そこが店舗入口だ。壁が迫っているため、撮影時に奥行きが取れず、店を取り仕切る星子崇さんの配置がこうなった。優勝・松山商高(愛媛)、準優勝・熊本工高のユニフォーム及び金メダル、銀メダルを「枠内」に収めるには、物理的にこれが最善の絵であった。

「店の入口のレイアウトは最も、こだわった部分です。松山商のユニフォームがスタート。あれがなければ、何も始まらなかったわけですから」

店主・星子崇さんは熊本工高野球部OBで、96年夏の決勝、松山商高の「奇跡のバックホーム」の際の三塁走者だ


 1996年8月21日。全国制覇をかけた第78回全国高校野球選手権大会決勝は、松山商高と熊本工高による公立の実業学校対決だった。3対3の10回裏。熊本工は一死満塁のチャンスを迎える。本多大介の打球は高々とライトへ。熊本工の誰もが「タッチアップ→優勝」を確信した。しかし、交代したばかりの右翼手・矢野勝嗣は本塁へダイレクト送球。三走・星子は好スタートを切ったが、間一髪で生還を阻まれた。「奇跡のバックホーム」。松山商ムードとなり、延長11回表に3点を勝ち越し、そのまま27年ぶりの優勝を決めた。59年ぶり3度目の決勝進出の熊本工としては、初の全国制覇を目前にしながら無念の準優勝である。

 もちろん、星子のせいではない。チームメートも話題にはしなかったが、星子としてはその気遣いがつらかった。三塁走者は「アウト」で完結していても、周囲の関係者は、いつまでも引きずっていた。会えば聞かれる、その繰り返し。次第に星子は、現実から遠ざかるようになる。

オープンまでの経緯


 転機となったのは2013年。ある取材企画が縁で、96年夏のヒーロー・矢野と再会を果たす。「会って直接、話さないと分からないこともある」。矢野はあのバックホームで一躍、時の人。とはいえ、勝者にしか分からない悩みもあった。2人は腹を割って話し、すべてを受け入れる覚悟を決めた。

「私はもともと飲食業をしており、こうした店を持ちたいという意向を持っていました。毎年、夏になれば、取り上げていただける試合。何か形に残したかった。最終的に、矢野が後押ししてくれたのは確かです」

 翌2014年5月、野球人が集まる店「たっちあっぷ」を開業した。矢野はオープン記念にあたって、甲子園で着用した松山商高のユニフォームと金メダルを星子に寄贈。2人の友情なくして、「たっちあっぷ」は誕生しなかったのだ。

当時のバックホームのシーンを見る星子さん「あのプレーがあったから今がある」と、1996年夏の名勝負を発信していく立場と、自覚している


「店名の由来? 分かりやすいほうが良い、と。僕イコールですから」。だが、16年4月の熊本地震で、旧店舗が入っていたビルの解体が決定。新店舗は17年7月25日に新装オープンし、以前の3倍以上の広さだ。

 工夫を凝らした店内は甲子園をモチーフとしている。壁紙はレンガ仕様で、ダークグリーンが一層、聖地を連想させ、座席も甲子園のベンチをイメージしたブルーだ。高校野球のユニフォーム50着以上が飾られており、お客さんが着用できる、他店ではあまりないサービスと言える。

「本当にありがたいことに、全国から『飾ってください!』と送られてくるんです。残念ながら店に出せないのも、30校ほど……。ただ、私としてはまず、熊本県内のユニフォームを充実させたい思いが強いんです」

 座敷スペースの座布団はベース。また、奥には奇跡のバックホームの特大パネルがある。捕手(松山商高・石丸裕次郎)と三走(星子)の部分がくり抜いてあり、顔をのぞけば記念撮影。まるで、観光地のようだ。


ユニフォームの着用も可能。壁やベンチは甲子園をモチーフに。座敷奥にある巨大パネルでの記念撮影も人気だ


「一期一会」を大切に


 旧店舗から通じ開店から6年が経過し、全都道府県から高校野球ファンが訪れる人気スポット。最高のムードの中で絶品フードと、種類豊富なお酒を楽しめる。打順をモチーフにした黒板には、メニューが記載され、一番人気は唐揚げ。名物は甲子園カレー、甲子園たこ焼き、甲子園焼きそばの3点セットだ。店内は灼熱の甲子園の映像が流れており1年、夏モードに浸ることができる。そこで、絶品フードを口にすれば、まるでマンモススタンドで観戦しているような気分になる。

メニュー表もスコアボード形式で凝っている


 星子さんも厨房に立つが、可能な限り、接客の時間を大切にしている。聞かれるのは当然、あの夏のタッチアップだ。23年前のシーンを見ながらこう言った。「私は毎晩、同じことを話しているかもしれませんが、お客さんにとっては初めてのこと。私も全国の情報を得られる機会になります。高校野球を通じ、お客さん同士のつながりの場にもなってもらえればうれしいです」。一期一会。かつての三塁走者・星子さんは地元・熊本で店主として、伝説の名勝負を発信し続けている。

名物メニューはカレー、焼きそば、たこ焼き。店内は高校野球の映像が流れており、ビールを飲みながら、甲子園ムードを味わえる


店舗PROFILE
住所:熊本市中央区花畑町13-49 第3RIKIビル10F
TEL:096-355-1281
営業時間:20時〜27時
定休日:日曜日
座席数:座敷15人、テーブル&カウンター計40人
アクセス:熊本市交通局(熊本市電)「花畑町駅」から徒歩約2分
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