
西武監督時代の筆者 写真=BBM
いまの人は長幼の序を分かっていない
各球団の新入団選手が会見で抱負を語っている。いまの人たちは長幼の序を分かっていない。
われわれが
巨人に入団したときは「
川上哲治さんを抜くような選手になる」ということは恐れ多くて言えなかった。
理想はあってもいい。ただ、自分のチームの大黒柱を抜くような選手になりたいというのは言い過ぎだ。言っていいことと悪いことの判断ができない。要するに、上に立つ人間が教育をしていない証拠だ。
このオフも相変わらず複数年契約がまかり通っている。私はかつてメジャー・リーグの関係者を日本に招いて行った日米ベースボールサミットで「日本は複数年契約をやったらダメだ」とクギを刺された。それなのに複数年契約は導入された。日本はアメリカのマネばかりする。結局、何億ももらいながら働かない選手をベンチで遊ばせている。カネの値打ちをなんだと思っているのか。カネがあるから幸せになれるわけではない。複数契約を廃止して、結果を残したらインセンティブで評価するという成果主義にすべきなのだ。
教えるということを巨人は知らない
巨人はこのオフも23年に向けて補強している。ルール違反ではないが、そもそもカネがあれば良い選手の獲得が許容される、このルール自体が間違い。MLBはFAで選手を獲れば翌年のドラフト指名の権利を一部放棄しているのに、そういうところはマネをしない。ずるいのだ。
何度も言うが教えるということを巨人は知らないのだ。だから良い選手でも花開かずに終わる。あるいはトレードで放出。監督に反抗的な態度を取ったのだろう。言うことを聞かない選手を教育するのが首脳陣の仕事ではないか。
私など選手からの反発は日常茶飯事だった。選手のために「こうしなさい」と言うのに、反抗してそのとおりにやらない。そこで私はグッとこらえたというより、そういうものだと思っている。嫌いな相手でも「ああ、お前に会いたかった」と、嘘でもいいから言えば相手も悪い気はしない。なびくのだ。もちろん、今日の明日では無理だ。何年か後でも私の信念を理解したらそのとおりにやるのだ。教育とはそういうことである。
弱いチームであればあるほど課題は多い。そこを一つひとつ解決していけば名監督になれる。だから私は
原辰徳監督にそう言い続けているのだ。巨人でいくら勝っても当たり前。川上さんにしても、他球団なら9連覇などできなかった。
千葉茂さんも近鉄の監督になったら、選手が思うように動かないから半ばノイローゼになった。
選手に引導を渡したことがない
その中で私はどうしたか。いま思い返すと
ヤクルト松園尚巳オーナーのひと言が原点だった。
「私はトレードが嫌いだ。問題のある選手をうまくして勝ってくれ」
私は選手に引導を渡したことはない。みんな年数とともに成長した。人間というのは本来、素直である。どんなに悪人でも良心はそこにある。
結局、「これをやったらこうなる」という信念を選手が示してもらっていないから反発するのだ。きちんと言ってやれば落第生は出ない。
いまの巨人はどうだろう。負けるのは選手が悪い。それなら……と言ってフロントは毎年補強。その結果、犠牲者が出るのを分かっていない。助っ人の獲得が報じられているが、基本的に助っ人はメジャー・リーグの落第生が日本に来るのだ。それをありがたがって使っていたら日本はマイナー以下かということになってしまう。よほど魅力のある選手でなければ私は助っ人を獲らなかった。
PROFILE 廣岡達朗/ひろおか・たつろう●1932年2月9日生まれ。
広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。