これも「常連校」の宿命である。昨年は2019年以来、6年ぶりに春、夏を通じて甲子園出場を逃した。悔しさをバネに40人の部員が今春、聖地に戻ってくる。目標は一つだ。 取材・文=沢井史 写真=牛島寿人 
部訓は「一球同心」。大阪桐蔭高は学校、グラウンド、寮における24時間の共同生活において、どこにも負けない「結束力」が最大の武器である
半袖を着用した意図
時計の針が間もなく夕方4時を指そうとした頃、大阪桐蔭高の今田悟校長が、本館グラウンドに並んだ選手たちへ2年ぶり16回目のセンバツ出場決定の吉報を伝えた。緊張の面持ちでその言葉を受け止める選手たち。だが、40人いる選手たちの半分以上がユニフォームの下は半袖アンダーシャツ姿だった。この日は1月下旬から続く寒波の影響で、気温は5度ほどしかなかったにもかかわらず、だ。
黒川虎雅主将は「(半袖姿なのは)気合が入っていたので、寒さは気にならなかったです」と笑う。チームとしては2年ぶりの悲願。気持ちを込めて、その瞬間を迎えたことを主将は強調した。だが西谷浩一監督は「この寒さで半袖は……」と苦笑い。それでも2年ぶりの選出について報道陣から質問が飛ぶと、途端に神妙な面持ちとなってこう口にした。
「今日、選んでいただいてありがたく思っています。32校と同じスタートラインに立てたので、しっかりと準備していきたいと思います」
昨年は
中野大虎(ENEOS入社)、
森陽樹(
オリックス2位)と超高校級の2人の右腕を擁しながら、6年ぶりに春夏連続で甲子園出場を逃した。「良いチーム、良いキャプテンがいて、隙なくやってきたチームだったのに、それでも勝たせてあげられなかったのは監督の責任」と西谷監督。上級生の涙を見てスタートしたのが現チームの新2、3年生だ。
旧チームから外野手でレギュラーの内海竣太(3年)は、現チームについて、こう述べる。
「昨年は中野さんが軸になってチーム力もあったのに、春も夏も悔しい結果になってしまいました。自分は試合に出させてもらっていたので、秋はその中でどう勝つかを考えながらやってきました。昨年も仲が良かったですけれど、昨年以上に今年は一体感があるんです。ミーティングでは、誰かが意見を言ってそこについて行くのではなく、1人ひとりが意見を言って、全員で話し合いながら前に進めていると思います」
エースの一本立ちに期待
副将でもある内海と主将の黒川が連携を図りながらチーム力を高める。さらに結束を強める強みとして西谷監督が再三、挙げるのが寮生活だ。
「ウチは練習だけでなく学校生活、寮と大げさに言うと24時間みんな一緒にいますので、そういう結束はどこよりも強いと思っています」
昨秋は寮に残る3年生も含め、中野ら主力投手らも率先して練習のサポートをしてくれた。先輩の心強いバックアップに「感謝しかない」と黒川も振り返る。試合ごとにキャプテンシーを強くしていった黒川について、西谷監督は「(昨年は)あれだけチームが結束しても勝てませんでした。(昨年の)キャプテンの中野の下で勉強していた黒川が、中野を超えるくらいになってもらって、どれだけ一つの束になってできるかですね。昨年よりさらに強い気持ちで戦うことが必要だと痛感したと思いますので、40人みんなで戦える組織を作れるかということをいつも話しています」。センバツ本番に向けて、主将のさらなる成長に期待している。

西谷監督[右]は主将の黒川[左]にチーム運営において、全幅の信頼を寄せている
なおも、西谷監督が「チームの大黒柱」と期待するのが中野、森の背中を見てきたエース右腕・
吉岡貫介だ。最速153キロの速球を誇るプロ注目投手に、西谷監督は「中野と森を超すような存在になってほしい」と熱い視線を注ぐ。前のチームでは2人に次ぐ存在だったが、昨秋はエースとなり「2人に勝るくらいの力はつけてきた。精神的にもエースとして一本立ちしてもらって、チームを勝利に導く力になってほしいです」と大舞台での躍動を期待する。
吉岡は吉報を受け「ホッとしました」と、安堵の表情を浮かべた。「大阪桐蔭は甲子園には行きやすい場所なのかと思っていました」と本音を吐露したが、下級生時は聖地への道は険しかった。「昨年は中野さんと森さんがいて、その中で(甲子園に)立たせてもらえるのではと思っていましたが、甲子園は簡単に行ける場所じゃないと思いました。でも今年、やっと甲子園に立てると思うと……」と、言葉にならないうれしさをにじませた。今春センバツは横浜高・
織田翔希、山梨学院高・
菰田陽生、沖縄尚学高・
末吉良丞と、ひと足先に甲子園を経験した豪腕らが注目を浴びている。「自分も負けたくないです」と闘志をのぞかせつつも「まずは、チームが勝つことが最優先。勝てるピッチングができるようにしたい」と表情を引き締めた。

エース・吉岡は横浜高・織田、山梨学院高・菰田、沖縄尚学高・末吉らの注目選手にライバル心を燃やす
意識させた紫紺の大旗
西谷監督に旧チームにはない今年の強みについて聞くと「去年の悔しさを持っていること」と口にした。“空白の時間”があったからこそ、チームに宿った闘志が原動力となると指揮官は考えるが、さらなる目標も掲げていた。
「ウチは甲子園では2022年の春に優勝したのが最後。OBたちがこれまで(春4度、夏5度で計)9回優勝しているので、10回目の甲子園優勝を目指そうと、実は新チーム結成当初からずっと言ってきたんです。中京大中京さんは(全国最多の)11回優勝されているので、そこに挑戦したいのはもちろんですが、あえて区切りのいい10回目ということを皆に意識させたほうが良いのではと思って、10回目、と言っています」
ただ、オフシーズンを経てのセンバツは夏に比べて初戦の入りが難しいと西谷監督は明かす。
「実戦から離れてからの試合なのでどうなるかなというのはありますが、ここからが勝負だと思っています。センバツは出場が決まってから試合まで多くの時間がある訳ではないですけれど、与えられた時間はみんな平等。その時間を工夫して使って実戦力をつけて、簡単には勝てない試合ばかりだとは思いますが、まずは初戦に粘り強い戦いをしたいです」
昨春のセンバツは98年ぶりに大阪勢ゼロという事態にも遭った。だからこそ、今春の聖地にかける思いは並々ならぬものがある。主将の黒川も初めての甲子園へ思いをはせつつ、さらに気合を入れてこう言った。
「自分たちは、甲子園に出るだけでは満足してはいけないチームだと思っています。チームとして『一球同心』というスローガンを掲げていますので、個々の力も大事ですけれど、最終的にどれだけチームとして団結して戦えるか。自分もチームのことを第一に考えながらやっていきたいです。目標はもちろん、日本一です」
春夏を通じ10度目の優勝を目指しつつ、昨年は立てなかった甲子園の舞台で、新たな大阪桐蔭高らしさを見せつけられるのか。平成、令和と高校野球界をリードしてきた「西の横綱」。全員で心を一つにして、4年ぶりの紫紺の大旗、大阪桐蔭高の底力を今春の大舞台で見せつけるつもりだ。