
指揮官も思わず駆け寄った7
神宮球場のボルテージは、最高潮に達していた。7月25日の
巨人戦、5対5と同点の9回一死満塁。代打で打席に立ったのは、
川端慎吾だった。対するは救援左腕・
中川皓太。フルスイングをしたあとの2球目だ。直球を左前にはじき返すサヨナラ打を放った。
「正直、めちゃくちゃ緊張して足が震えていました。打った瞬間に歓声が聞こえたかなという感じで、それぐらい集中していました」
“天才打者”復活の足掛かりとしたい。2015年に首位打者と最多安打のタイトルを獲得しリーグ優勝に貢献したが、近年は腰痛に悩まされ、出場機会が激減。今年1月には腰部の手術を受け、2月の春季キャンプは自身初めて不参加になり、今季も苦しいスタートとなった。
だが、懸命にリハビリをこなし、7月上旬に今季初昇格。二軍戦では守備に就いていなかったが、
高津臣吾監督はその打棒を信じ、一軍に呼んだ。「昨年、全然プレーできなくてそういう気持ちも持っていただろうし、彼らしい打撃をしてほしいと思った。期待に応えてくれた」。指揮官は、感慨深げに川端の一打を振り返った。
今季は新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が約3カ月遅れ、当初は無観客で行われていた。そして、7月24日に本拠地での有観客試合がスタート。上限は5000人だったが、チームが大きな一歩を踏み出した翌日に背番号「5」も新たな一歩を踏み出し「久しぶりに温かい声援をいただいて本当にうれしく思います」とお立ち台で叫んだ。
その後は打撃の状態が上がらず二軍暮らしが続いたが、完全復活への道が開けたのは確かだ。11月は志願してフェ
ニックス・リーグにも参加した。努力の先に、希望の光が輝くはずだ。
写真=BBM