
拾ってもらったと心に留めて投げている姿があるからこそ「来てくれてありがとう」と信頼を寄せられる
丁寧に言葉を紡いだ。
中川颯の本心だった。「どんな場面でも、このチームのために腕を振ることは変わらないので。その初心を忘れないように、感謝の気持ちを持って投げていきたいと思います」。12月6日に950万円増の年俸1600万円(金額はすべて推定)で、来季の契約を更改した。昨年まで一軍登板は通算1試合。育成選手を経験し、
オリックスから戦力外通告を受けた。地元・神奈川に本拠地を置く
DeNAで再起。「拾ってもらったことを忘れない」と自らに言い聞かせた。
29試合で3勝1セーブ5ホールド、防御率4.42ながら、数字以上の貢献度があった。先発の一角として開幕ローテーション入り。4月30日の
中日戦(バンテリン)でプロ初勝利を記録した。「お客さんがたくさん入った球場で投げられる。ありがたみというか、すごく幸せなこと。全試合そう思って、マウンドに立っていました」。どん底を知る男が持つマインド。「本当に小さいころから夢に見ていた場所」と、横浜スタジアムへの思いも特別だった。
右肩の炎症による離脱はあったものの、8月に復帰後はリリーフでも奮闘した。8月20日の中日戦(横浜)や9月7日の
巨人戦(東京ドーム)では、満塁で火消し→イニングまたぎに成功。シーズン3位で迎えたCS、日本シリーズも計6試合を無失点と結果を出し、26年ぶりの日本一には欠かせない戦力だった。「安心感を与えられるような選手になりたい」と今オフは同じアンダースローの巨人・
高橋礼らとの合同トレーニングも予定。さらにきれいな景色を見るため、慢心なく歩む。
写真=BBM