
3月のJABAスポニチ大会を制した日本新薬は都市対抗8強、日本選手権は2回戦敗退と頂点に手が届かなかった/写真=松村真行
京セラドームをあとにするバスでのことだった。乗車する足を一瞬止め、入社7年目を迎えた日本新薬・福田泰平(立命大)は、岩橋良知監督(中京大)に語りかけてきた。
「本当にすみません……」
目には涙。「号泣だった」と振り返る岩橋監督は、福田にこんな言葉を返したのだという。
「泣くな、おまえがこの経験を下(の選手)に伝えなければいけないんだ」
王子との一戦は両チーム無得点で迎えた8回裏に試合が動いた。二死一、二塁と攻めた王子は四番・伊礼翼(九州共立大)が中前安打を放つ。打球に対し、中堅手の福田は猛チャージをかけた。だが、「先取点は絶対に許さない」という気負いが影響しただろうか。福田が打球を捕り損ね、日本新薬が一気に二人の生還を許したのはその直後だ。結果的にそこでの失点が決勝点に。優勝候補と目されていた日本新薬は、無念の2回戦敗退となった。
昨年は二大大会ともに8強進出。着実に地力をつけてきた日本新薬は今春の東京スポニチ大会で優勝を手にした。エース・榎田宏樹(日本文理大)の安定感は揺るがない。左の強打者である新人の
中稔真(上武大)らも加わった打線は厚みを増した。そして何よりも、最大の強みはチーム全体の野球に取り組む姿、その意識の高さだ。「新薬魂」と称されるひたむきな姿勢は社会人屈指と言える。練習ではグラウンドいっぱいに選手たちの声が響く。守備練習ではノックバットを握る岩橋監督と選手の「本気」が激しくぶつかり合う。「一球たりとも、ムダにしない」。張り詰めた空気が常に流れる。ゆえに、周囲からはこんな声が聞かれたものだ。
「今年の日本新薬は強い」
遠い未来ではない“新薬魂”が成就する日
だが、優勝候補として挑んだ都市対抗ではベスト8止まり。昨年味わった「8強の壁」をまたしても破ることができなかった。そして、日本選手権でも……。岩橋監督は言う。
「今年は各大会で優勝候補に挙げていただくなかで選手はよく練習をして、我々の指導にもついてきてくれた。よく頑張ってくれました。ただ、勝たせてあげられなかった……。今回(日本選手権)の負けで私自身が監督として、もっと勉強しなければいけないと感じました。今年は完全に私の責任です。優勝するためには、選手やスタッフもそうですが、監督が『全国で勝てるチーム』を作っていかなければいけないと感じています。その取り組みはやってきたつもりですが、やはり結果が出ない以上、『つもり』ではいけない。監督としてチームを勝利に導いてあげる手腕をもっと磨いていかなければいけない。そのための『引き出し』をもっと持たなければいけない。そう痛感させられました」
そこには自責の言葉しか見つからない。ただ逆に、その「悔い」がチーム力をさらに引き上げる。指揮官の言葉には、そう予感させるものが詰まっていた。今シーズンの戦いを終えた岩橋監督は誓う。
「今年だけ優勝候補に挙げられるチームではなく、来年も、さらにその先もそう言われ続けるチームでありたいと思います」
新薬魂が成就する日――。それは遠い未来の話ではないはずだ。(取材・文=佐々木亨)