
下野博樹監督[右から2人目]が指揮する福井工大は10大会連続43回目の出場で初の決勝進出。慶大との決勝で大敗[2対13]したが、確かな足跡を残した[写真=田中慎一郎]
歴史に名を残した「全国準優勝」の要因
指揮官がベンチにいると、学生たちは落ち着いてプレーできるという。福井工大は大学選手権に10大会連続43回目の出場で初の決勝進出、準優勝を遂げた。北陸大学野球連盟としても新たな歴史を刻み、70回の記念大会を盛り上げた。176cm130kg。圧倒的な存在感を見せた下野博樹監督は、福井工大野球部の“心の拠り所”。雄姿だけではない。情熱的な言葉力に、選手たちは引き込まれているのだ。学生指導の原点は一時、野球から離れ、社業に専念していたNTTでの仕事にあった。
「土台は9年間の
コールセンターにあります。お客さんのさまざまな要望に応える電話対応をこなしたのは、財産になっています。学生と接するときも、まず、意見を聞いて、やる気スイッチを探す。常日ごろから本を読み、使える言葉をノートに書き留め、引用するようにしています」
敦賀高、福井工大では捕手として活躍。1983年に入社した電電北陸(のちNTT北陸)では12年プレーし、86年には都市対抗準優勝。現役引退後は5年のコーチを経て、99年には同年限りで活動を終える同チームの監督を、1年だけ務めたのだ。
「幕引きの監督でした。13人で予選を勝って、都市対抗出場。母校で監督として指揮する大きなきっかけになりました」。ユニフォームを脱ぎ、社業に専念。担当部署となったのが、金沢のコールセンターだったのだ。
25人の登録選手を全員起用した理由
2009年から福井工大を指揮。同大学野球部のOBが監督を務めるのは初。母校に愛着があるのは当然だ。
「全員が、後輩になる。少しでも舞台に上げ、経験をさせたい。全員、使わないとソワソワするんです(苦笑)。我慢できないマイナス面もありますが、皆、準備をしてくれている」
チーム目標は「福井から頂点へ」。21年のスローガンは「結束力」。今春は北陸大学リーグを10連覇で、10大会連続で全国舞台に立った。7年ぶり8強、27年ぶり4強。そして初の決勝進出と、一つひとつ実績を積み上げた。
178人、全部員にチャンスがある。今大会も4選手を大会直前に登録変更。象徴となったのが木村哲汰(4年・沖縄尚学)だ。リーグ戦では代打要員だったが、今大会は個人大会最多安打にあと1本に迫る11安打で敢闘賞を受賞。1回戦から決勝まで5試合、ベンチ入り25人すべてを起用した。
指揮官を強力サポートする真辺靖幸ヘッドコーチ、
水尾嘉孝投手コーチ(元
西武ほか)、今春に就任した
町田公二郎野手総合コーチ(元
広島ほか)ら首脳陣の働きも、快進撃の要因だ。
下野監督は大会期間中、ルーティンを貫いている。「長く指揮官をしているとゲン担ぎだらけで……(苦笑)。ヒゲは剃っていませんし、靴下、パンツも同じものを使用。夕食も毎晩、あんかけ焼きそばを食べています」。しかし、大学日本一の壁は高かった。慶大との決勝は序盤から主導権を握られ、2対13。7日間で5試合を戦ったが、最後は力尽きてしまった。下野監督は試合後、すぐにメンバーを三塁ベンチ前に集めている。
「歴史を作ってくれた4年生には労いの言葉。(コロナ禍で大会中止だった)1学年上の4年生の思いを背負って戦ってくれた。3年生以下には課題ができた。慶應さんは次元が違いました。すべての面でレベルアップしないと、ここへは戻って来られない」
下野監督は自身のスマホにスコアボードの試合結果を、写真に収めた。悔しさを胸に秘め、福井での再出発を固く誓った。(取材・文=岡本朋祐)