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堀内恒夫の多事正論

堀内恒夫コラム「レベルの高さを見せつけた打者。攻守にハイレベルな捕手・中村奨成」

 

スイングが速く、体の前でボールをとらえる打撃が特徴の中村/写真=田中慎一郎


 夏の甲子園大会は花咲徳栄高の優勝で幕を閉じた。大会の目玉として期待された早実・清宮幸太郎が地区大会で敗れたため、盛り上がりに欠けるのではないかと思われたが、いざ始まってみれば大逆転あり、壮絶な打撃戦ありで、面白い大会だった。

 数多くあったスリリングなゲームを陰で演出したのは、量産されたホームランだろう。私たちの感覚をはるかに上回って打球が飛んだ。泳いで打った打球や、詰まった当たりが簡単にスタンドインした。プロでもあまりお目に掛からないバックスクリーンへの一発も多かった。

 ボールによるものなのか。金属バットによるものなのか。風のせいなのか。選手のバッティング技術が上がったからなのか。ドラフト候補生がひしめいていた昨年と違い、「超高校級」と言われる投手が少なかったからなのか。原因は分からないが、明らかにここ数年の大会とは様子が違った。

 しかし、そんな打者優位の大会が1人のヒーローを作り出した。準優勝した広陵の捕手、中村奨成だ。1大会での本塁打、打点など記録を次々と塗り替え、ひとり抜きん出たバッティングをしていた。スイングが速く、体の前でとらえて飛ばしている。右方向にも打つ、バックスクリーンへも放り込む。高めの球を左翼席まで運ぶ。久々にレベルの高さを見せつける打者が出て来た。打撃だけではない。中京大中京戦では、相手のバントを素早く処理して一塁走者を二塁で刺す強肩も見せつけた。

 中継を見ていた私もテレビの前で「二塁は間に合わない。投げちゃダメだ!」と思わず叫んだほどのタイミングだった。捕手としては10年に1人の逸材と言ってもいいだろう。特に、打撃は高校の先輩・小林誠司(巨人)の高校時代よりも上ではないか。広島大会のときから注目されていたとは思うが、「これで、(ドラフト指名の)競争率が上がった」と嘆いているスカウトも多いだろう。

 しかし、個人的に1つだけ彼に注文がある。あくまで私の好みの打者かそうでないかのレベルで見たときの話で、彼の欠点を指摘するわけではない。そのつもりで読んでいただきたい。

 私はボール球を振らない打者が好きだ。その判断基準で言うと、中村君はボール球を振っている。高校生の投手が相手なら、少々のボール球でも強引に打ってヒットにできるかもしれないが、プロに入ってキレのある球と対戦したとき、今のようにボール球を振っていては打てないと思う。

 プロ野球の世界を見渡しても、ボール球を振る打者は一流にはなれない。ボール球をヒットにできる打者は、今なら坂本勇人(巨人)くらいしかいない。坂本には、ほかの打者にはない対応力の高さがある。ボール球の変化球に体勢を崩されても、バットを残してヒットゾーンに打球を運べる高等な技術を持っている。坂本がヒットを量産できる秘密は、あの長嶋茂雄さん(元巨人)が体を大きく開きながらも、バットを残してヒットを打っていた理屈と同じだ。投手にとって、こういうタイプの打者が最も嫌だ。

 それにしても、中村君は久々に見るスケールの大きな打者、三拍子そろった選手だ。人材難のポジションの捕手に攻守にハイレベルな選手が出現して、清宮幸太郎(早実)一辺倒だったドラフト戦線が一気に盛り上がってきた。

PROFILE
堀内恒夫/ほりうち・つねお●1948年1月16日生まれ。山梨県出身。甲府商高から66年ドラフト1位で巨人入団。1年目に16勝2敗、防御率1位の成績で新人王、沢村賞。72年には26勝をマークして最多勝、MVPに輝く。日本シリーズ11勝は1位タイ。83年現役引退。通算成績は560試合登板、203勝139敗6S、防御率3.27。巨人コーチを経て2004〜05年巨人監督を務めた。08年野球殿堂入り。現在、野球解説者。
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レジェンド堀内恒夫の球界提言コラム。

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