
8月4日現在、打率.258、18本塁打、57打点となかなか調子が上がらない岡本/写真=高原由佳
一寸先は闇。天国から地獄。まさに波瀾万丈のペナントレースですな。一時は2位以下を10ゲーム以上引き離して、優勝へ独走状態だった
巨人が一気に失速した。まあ、例えば6連戦で6連敗しているうちにライバルチームが6連勝すれば、6ゲーム縮まる。現実にそれに近いことが起きたのだから、当然と言えば当然なのだけど。
今回は古巣・巨人の失速と、その原因について少し考えてみる。先発ローテーションの谷間に投げさせた
古川侑利や
ヤングマンが序盤に大量失点するなど、先発投手が責任を果たせない。大黒柱の
菅野智之にも昨年までのような安定感がない。開幕前から不安視されていながら、ここまで予想外に踏ん張りを見せてきた中継ぎ陣にも疲れが見える。大事な局面で
マシソン、
田口麗斗らが打たれて試合を落とした。と、ここまで書くと、失速の原因は投手陣にありそうだ。しかし……。
打線に問題はないのだろうか。ある。
岡本和真がどうにも気になる。打率が思うように上がってこない。チャンスに凡打して流れを止めることも多く、7月27日の
阪神戦(東京ドーム)ではついに四番から七番に降格させられた。昨年の、あの豪快なバッティングはどこへ行ってしまったのだろうか。
意外と思われるかもしれないが、岡本は器用な打者だ。ボールにバットを当てるのがうまい。だが、今年はその器用さが裏目に出ている。バットに当てた打球がフェアゾーンに入ってしまっているのが問題だ。その打球が半分でもファウルになっていれば、打率はもっと上がっていたはずだ。
四番打者には甘い球はほとんど来ない。1打席で1球あるかないか。その甘い球を仕留める打者が四番を張れるのだ。今の岡本はどんな球種の球にも、どんなコースの球にも手を出しにいっている。すべてのボールを打ちにいってしまい、打つボールを絞れていない。狙いと違うボールが来ても、バットが止まらない。自信がないのか、スイングそのものも昨年より鈍い気がする。狙いと違う球、嫌な球は見逃し、ファウルにして、1球来る甘い球を仕留めるのが真の四番打者なのだが。
私には四番打者の忘れられない一打がある。巨人コーチ時代、
落合博満が横浜戦で大魔神・
佐々木主浩から打ったホームランだ。落合は佐々木のストレートを打った。その打席、落合のバットは佐々木のフォークにはピクリとも動かなかった。佐々木のフォークは分かっていても打つのは難しい。そこで、落合はストレートに狙いを定めた。
落合にフォークをことごとく見切られた佐々木はカウントを悪くして、最後にストレートを投げざるを得なくなった。その1球を落合は待っていた。たった1球しか投げなかったストレートを待ち続けてホームランにした。恐ろしい執念と集中力、そして高い技術。味方ながら恐ろしくなった。
岡本もこうであってほしい。どんな球でも打ちにいくのではなく、1球しか来ない甘い球を待ち続け、それを確実に仕留める。それが真の四番打者だ。かつて、
王貞治さんも
長嶋茂雄さんもそうだった。岡本にはONや落合の背中を追ってほしい。
PROFILE 堀内恒夫/ほりうち・つねお●1948年1月16日生まれ。山梨県出身。甲府商高から66年ドラフト1位で巨人入団。1年目に16勝2敗、防御率1位の成績で新人王、沢村賞。72年には26勝をマークして最多勝、MVPに輝く。日本シリーズ11勝は1位タイ。83年現役引退。通算成績は560試合登板、203勝139敗6S、防御率3.27。巨人コーチを経て2004〜05年巨人監督を務めた。08年野球殿堂入り。現在、野球解説者。