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逸材発掘!ドラフト候補リサーチ2013

能間隆彰[投手・東洋大]

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屈辱をバネに飛躍を誓う東洋大の新「背番号1」

近年の東都大学リーグをけん引してきた強豪・東洋大。
しかし、今春は神宮第二球場を舞台にリーグ戦を戦っている。
1998年秋以来となる二部リーグで、1季での一部復帰を目指す同大をけん引する左腕・能間隆彰。
チームの再建とともに、自身の目標であるプロ入りを実現するため――。
左腕の野球人生をかけた大学ラストイヤーが幕を開けた。



「自分のせいで二部に落ちた…」

 4月7日に神宮球場で幕を開けた、2013年の東都大学一部リーグ戦。4季連続優勝を目指す亜大を筆頭に、中大、駒大、青学大と強豪校が名を連ねるが、今春はその中に東洋大の名前がない。

 07年春から戦後初となる5季連続優勝を達成。11年春には史上初の春季リーグ戦5連覇を成し遂げ、10年、11年には大学選手権連覇も果たした。08年には春秋のリーグ戦と大学選手権、明治神宮大会を制して「大学4冠」を達成し、現役、OBとプロ選手も多数輩出している堂々たる東都の名門と言える。

 しかし昨秋、専大との入れ替え戦に敗れ、98年秋以来となる二部降格。就任42年目を迎える高橋昭雄監督が「一から出直しですね」と話し、チーム再建を託したのが、エース左腕・能間隆彰だ。「自分自身、主将という立場にいることが“奇跡”だと思っています」

 東洋大では、10年の鹿沼圭佑(現JFE東日本)以来となる「主将兼投手」の重責を担う。2学年上には11年のドラフトで3球団が競合したサウスポー・藤岡貴裕(現千葉ロッテ)がいるが、「僕は先輩方とは比べ物にならない。球も特別速くないし、実績もないですから」(能間)。

 事実、ここまでの6シーズンでリーグ戦登板は13試合。神奈川・桐蔭学園高時代からヒジや腰など、度重なる故障に悩まされ、勝ち星はわずか2勝にとどまっている。昨秋は初先発を含む8試合(先発3試合)に登板。主戦投手へ飛躍するきっかけをつかんだシーズンとなったが、左腕の心には苦い思い出しか残っていない。

 先に記した専大との入れ替え戦2回戦。1点リードの8回に3番手としてリリーフするも、決勝打を許し、マウンドを下りた。「自分のせいで二部に落ちたと思っています。過去を変えることはできないので、今年頑張るしかないです」

▲昨秋の入れ替え戦2回戦[対専大]では8回に3番手としてマウンドへ上がり、逆転打を浴びた



 指揮官はこの反骨心と、ケガを乗り越えてきた精神力に賭けたのだ。「強い気持ちを持っているし、一部復帰へ向けてチームをまとめられる存在ですね」(高橋監督)“戦国東都”と呼ばれ、全国屈指のレベルを誇る同リーグ。今春の二部にも、日大、立正大、国士舘大など一部経験があるチームが居並び、常勝・東洋大といえども、一部復帰は容易ではないだろう。 それでも、「後輩たちのためにも、自分がいる間に一部復帰を果たしたい」と、新主将は強く意気込む。

「背番号1」としての存在感を発揮する

 今春に鴨川で行われた春季キャンプには、巨人、ロッテの2球団のスカウトが視察に訪れた。181センチ85キロの逞たくましい体から投じられる直球は最速143キロを計時するが、投球の約9割がスライダー、カットボールなどの変化球であり、技巧派投手に分類されるだろう。

 独特のスライダーは、左打者に対しては縦、右打者には横に滑らせるイメージ。同大OBで、西武で活躍した松沼雅之特別コーチから「曲げようとするな」と助言を受け、昨年飛躍的に向上した球種だ。キャンプでは、ストレート、変化球のキレを意識して投げ込みを続けてきた。

 投手兼主将として臨む今春のリーグ戦。マウンド上ではもちろん、ベンチでも「背番号1」の存在感を発揮するつもりだ。

 「自分が投げているときは投球に集中。そうじゃないときは、ベンチから見ていて気付いたことをしっかりとバッテリーに伝えたい。『勝利』という目的に向かって、チームが一丸となって戦うつもりです」

 打撃、守備については、佐藤秀栄(帝京)、杉本栄二(東洋大姫路)の副将コンビに全幅の信頼を寄せている。「2人がいるおかげで投球に専念できる。自分より主将に向いていると思うし、本当に頼りにしています」

 一方で、初めて戦う二部リーグの舞台だ。東京都の高校出身の部員を除けば、ほとんどの選手が未経験だという神宮第二球場での試合は、昨秋までとは勝手が違う。打ち取った打球がオーバーフェンスとなり、ゴロの球脚は全く異なる。独特の雰囲気に飲まれ、これまで「1季で復帰」の目標を掲げながら、それを果たせなかったチームも少なくない。

 そんな懸念も、「『もう一度神宮で試合をするんだ』というモチベーションに変えたい」と言い切る。「他チームは『打倒・東洋』で挑んでくると思いますが、勝たなければいけないことは一部でも二部でも変わらない。相手が『やっぱり、東洋は違う』と思うような圧倒的な強さを見せます」

 目標は最短での一部復帰。そして、その先の舞台も見据えている。個人の目標にしている「1回戦で先発してシーズン5勝」を達成すれば、ともに大きく現実味を帯びてくるはずだ。「プロへ行きたい気持ちは強いですが、まずはチームを一部へ復帰させることに全力を尽くします。今年結果を出せなかったらそれまでの選手だということ。『負けない投手』になれるように力を付けたい」

 新たに背負う背番号1。「背中で引っ張るとまでは言えませんが(苦笑)、プレーで主将としての責任を果たせるようにしたいです」

 苦難、屈辱、決意――。さまざまな思いを背負って始まったサウスポーの大学ラストイヤー、晩秋の神宮球場をフィナーレの舞台にしてみせる。

PROFILE
のうま・たかあき●1991年9月26日生まれ。神奈川県出身。181㎝85㎏。左投左打。
寺尾中では軟式野球部に所属。
桐蔭学園高ではケガに苦しみながら3年時に主戦を務め、3年夏は神奈川県大会決勝で敗退。
東洋大進学後は1年春からリーグ戦に出場も、冬に左ヒジを痛め2年時は登板なし。3年春は開幕1週間前に左ヒジを再び痛めるも、最終カードの日大戦に3連投し入れ替え戦回避に貢献。
東都大学一部リーグ通算13試合、2勝2敗、防御率2.31。
直球の最速は143キロで、変化球はスライダー、カーブ、フォーク。

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