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山崎夏生のルール教室

実は公認野球規則にない“危険球” 審判の裁量が判断を分ける/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

必死に避けるもヘルメットが飛ぶ死球を受けたオリックス・中川。背筋が凍る一瞬だったが、一塁へと駆け出した


【問】10月9日のオリックス対ソフトバンク最終戦(京セラドーム)の5回、有原航平投手(ソフトバンク)が中川圭太選手(オリックス)の頭部へ死球を与えました。直撃後はしばらくしゃがみ込み、一度はベンチへ下がりましたが、その後、元気に一塁へ走りました。白井球審はこの死球を危険球とは判断せずに退場宣告しませんでしたが、なぜでしょう? 頭部に当たればすべて危険球ではないのですか?

【答】まず「危険球退場」というルールは公認野球規則ではなく、NPB独自の内規だということをご理解ください。MLBやアマチュア野球ではこの規定はありません。ただし6.02(c)(9)において投手は打者を狙って投球することは禁じられていますから、投球が当たったか否かは問わず、審判が故意だと判断すれば警告あるいは退場させることができます。

 では、なぜNPBでこの内規ができたかの経緯を説明します。かつては死球を巡るトラブルが数多あり、そこからの報復死球合戦、そして両軍入り乱れての乱闘ということが頻繁に起こりました。実際にベンチからの「当てろ」というサインもあったそうです。

 さらにこの、きっかけとなったのは1994年5月のヤクルト巨人戦(神宮)での大乱闘でした。この事態を重く見たセ・リーグは緊急理事会を開き、故意か否かを問わずすべての頭部への死球は危険球とし、その投手に退場を科すことにしたのです。異例のシーズン中の追加内規でした。

 ところがすっぽ抜けのカーブでも退場というケースが頻発し、翌95年からは一定の球速を伴った場合のみ危険球とみなす、と改められました。つまり判断は審判団にゆだねる、ということになったわけです。ちなみにパ・リーグはこの時点では今まで以上に厳しくルールの運用をするという見解にとどめており、両リーグ共通の内規となったのは2002年からです。

 そこで今回のケースですが、有原投手の投球はフォークのすっぽ抜けであり、体をひねってよけた中川選手の左側頭部に当たったゆえ危険球とはみなしませんでした。なお危険球の定義は「打者の選手生命に影響を与える、と審判員が判断したもの」とされています。

 とは言え、危険球でないからと言って死球を連発すれば険悪な雰囲気になるものです。3連戦の最初の2試合で両チーム計6個の死球が出たことから3試合目を「警告試合」とし、死球を与えた投手は即刻退場という特殊ケースもありました(05年5月15日、西武対巨人=インボイス)。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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