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2019タイトルホルダーインタビュー

中日・大野雄大インタビュー 仲間の想いを背負って──「みんなの『大野にタイトルを』に『絶対に獲らなアカン』と気持ちが入った」

 

もうドラゴンズではダメかもしれない。2018年に勝ち星ゼロの左腕に対し、密かにささやかれていたことだ。「完全に自信を失っていた」と言うが、新首脳陣と仲間からの信頼で本来の力を取り戻した。タイトルホルダーを取り上げる連載第3回は、そんな竜の左のエースの復活までのストーリー。
取材・構成=坂本匠 写真=松村真行、BBM


タイトルの盾は宝物。一番目立つところに


 高いリリースポイントから投げ下ろす、力強いボールが戻ってきた。2015年のプレミア12では、複数のメジャー球団スカウトが絶賛したストレートと、変化球のコンビネーションも健在。前年勝ち星ゼロの左腕は、25試合に先発登板、9勝8敗と2ケタ勝利には届かなかったものの、防御率2.58で初の最優秀防御率のタイトルを手にした。

――初の個人タイトル獲得です。率直な思いを教えてください。

大野 めちゃくちゃうれしいです。自分がプロの世界で個人タイトルに絡めるとは思ってもいませんでしたから。しかも、防御率ですからね。

――投手の主要3部門は防御率、勝利数、奪三振です。防御率に関してはどんな考えを持っていたのですか。

大野 ピッチャーって、防御率が一番うれしいんじゃないでしょうか。理由は一番抑えたという数字やと思うから。新聞とか雑誌もそうですけど、選手の記録が載っているものって、勝利数とか、奪三振数とかさまざまな項目がある中で、防御率が一番良い選手が、一番上になるように並べられていますよね? そこのトップに最後、いられたことがすごいことやと自分でも思います。

――タイトルを意識し出したのはいつごろからですか。

大野 本当に意識し出したのは……8月に入ってからくらいですかね。4月を終えてから、2点台をキープしていたんですが(5月7日時点では1.85)、6月19日の西武戦(ナゴヤドーム)で5失点してしまって、一度、3点台になってしまいました。そこからまた2点台、3点台を行き来して、8月に入ってすぐの巨人戦(6日@ナゴヤドーム)で7回無失点で2点台に戻して(2.89)、そこから連続無失点などで成績がいいんです。2点台をキープしているときに、ランキングも5位以内に入ってきました。その時点ではまさか獲れるとは思っていないんですけど、「もしかしたらな」と冗談半分には話していたと思います。そうこうしているうちに防御率がどんどん下がって、9月30日のチームの今季最終戦にローテーション的にも投げられそうとなったので、最後の最後まで頑張ってみようと。とはいえ、広島のジョンソンが僕の上にいたので、最後の最後には“他力”も必要なのかなと。

4月16日のDeNA戦[ナゴヤドーム]で7回途中1失点の好投で約2年ぶりの勝利投手に。ゲームセット直後、笑顔でチームメートを迎える


――9月27日の広島との最終戦(マツダ広島)で、ジョンソンが先発しました。そしてこの試合で……。

大野 味方が打ってくれました(※ジョンソンは7回途中4失点)。その試合前に円陣で「もしかしたら大野が防御率のタイトルを獲れるかもしれないから、今日はジョンソンを打って、大野に獲らせてやろう!」ということをみんなが言ってくれたみたいなんです。自分はこの試合のとき、名古屋に残留で調整していて直接聞いたわけではなかったんですが、29日からの甲子園でチームメートと合流したときに、そういうことがあったというのを聞いて、「これは絶対に獲らなアカン」と、気持ちがもう一つ入りましたね。

――9月30日の阪神との最終戦(甲子園)、試合前の心境は。

大野 広島が全日程を終了していたので、僕が3回1/3をゼロで抑えれば、ジョンソンを抜くことができるということが分かっていたんですが、それに向けて投げるというのは、不思議な感じでした。正直、今シーズン、一番緊張していたと思います。ただ、みんながマツダでいろいろな想いを持って打ってくれたことを考えると、自分の緊張なんてちっぽけなものだなと思うことができたので、立ち向かうことができました。

――阪神もその試合に勝てば3位、CSが決まる試合でした。その中での3回1/3は打者10人に対し、4奪三振のパーフェクトでした。

大野 パーフェクトは出来過ぎです。ランナーを出してからいかに粘れるか、そこが勝負やと思っていましたし。でも、10個のアウトを必死に取りに行った結果、パーフェクトという形で終えられて、良かったです。

――シーズン9勝で迎えたこの日の試合でした。タイトルが掛かっている一方で、2ケタ勝利も可能性があり、3回1/3での降板は難しい決断だったのではないですか。

大野 10勝できれば、それに越したことはないんですが、もし3回2/3でホームランなんて打たれちゃうと、次は7回まで目指さなければいけませんでした。広島戦での仲間の想いも考えると、タイトル優先という僕の気持ちもありましたし、監督・コーチもそういう考えでいてくれたので。チームに合流したときに、「タイトルを優先しよう」ということを言われて、「お願いします」と。今振り返っても、この決断に後悔はありません。防御率なんてこの先、獲れるチャンスがあるかどうかも分かりませんし、巡り合わせで最終戦で投げるチャンスもあった。本当に良かったと思います。

――3回1/3を投げ切り、交代となったときには、甲子園中から拍手が沸き起こりました。

大野 うれしいことですよね。阪神ファンの方には理由を聞いていないので、真意は分からないですけど。でも、素直にありがたく思いました。

――タイトルを獲得した実感はありますか? 11月26日にはNPBアワード(表彰式)が行われます。

大野 テレビで見ていただけの世界ですし、表彰の盾をいただけることになると思うんですが、いまからもう宝物やなと。家の、一番目立つところに飾りたいと思います。

170イニング任せた。取り戻した自信


 9月14日、偉大な記録を達成する。本拠地・ナゴヤドームに阪神を迎えた一戦で、NPBでは史上81人目となるノーヒットノーラン。タイトル獲得に向けても大きな一戦となった。

――タイトルを語る上では、ノーヒットノーランを無視することはできません。

大野 タイトルを獲れたのは、本当にこの試合が大きかったと思います。それこそ自分がプロの世界でノーヒットノーランができるなんて思ってもいなかったので。めちゃくちゃうれしかったです。しかも、ナゴヤドームで、満員御礼のお客さんの中で達成できたことも良かったですね。

――6回一死まではパーフェクト。味方エラーと四球、許した走者は2人だけです。投げていてどのような心境になるものですか。

大野 5回終わりくらいまでは、もちろん、ヒットを打たれていないことは分かっているんですが、「完封したいな」くらいの感じです。今季はその試合まで1個だけ。絶対に打たれると思っていたので、自分に期待はしないでおこうと。7回二死、8回のどこかで打たれるだろうと予想していて、記録を狙って、打たれて、ショックで完封も逃したら嫌だったので。いつか打たれると思いながら、8回までいきました。

――ただ、8回までいくとお客さんも含めて、周りが意識してザワザワし出したと思います。

大野 8回を終えたときには、これはもうやらなアカンと思って、9回のマウンドに向かいましたね。

――ブルペンから調子が良いというような感覚はあったのですか。

大野 ブルペンは全然普通でした。良くもなく、悪くもなく。この日はデーゲームだったんですが、朝、いつもよりも早起きだったんです。というのも、ウチは家族4人なんですが、上の娘(4歳)が早起きで、6時半に起こされました。デーゲームの場合、通常は8時に起きて、9時に球場入りするのがパターン。でも、6時半に「朝だよ」と起こされ……。奥さんも日ごろの家事・育児で疲れていると思うし、まあ、ええかと。娘と一緒に起きて、朝食を作って一緒に食べました。実は僕、結婚してから朝食を1度も作ったことがなかったんです。それ以降もないので、この日のたった1度きりなんですが、なんかいつもと違う流れだったんですよね。ただ、1時間半早く起きた分、眠くて、球場に着いても「眠いわ〜」と言っていたのを覚えています。そんな感じですから。まさか、ね。

――最終回は代打の原口文仁木浪聖也、そしてセの新人安打記録を塗り替えた近本光司と続く打順でした。

大野 マウンドに上がる前に、スコアボードの打順を見て、「近本君に回って来るのか……」と。ホンマに嫌で。木浪君にも打たれているんですが、近本君にはもっと打たれているイメージがあって。回ってきてほしくないな……いや、絶対回ってくるやんみたいな。やっぱり、最後は良い当たりをされましたし(※痛烈なサードライナー)、紙一重。最後の最後に良いバッターを抑えて、達成できて良かったと思います。

――達成後の喜びのパフォーマンスが、おどろくほどの大はしゃぎでした。

大野 ちょっと、差し込まれ気味だったので。というのも、最後、1ストライクからのサードライナー。「やばい」と思って打球の方向を見たら、「周平(高橋周平)、捕ってるやん!」みたいな。ちょっと、こんな感じの喜び方になってしまいました。

9月14日の阪神戦[ナゴヤドーム]でNPBでは81人目となるノーヒットノーランを達成。「うれしくて思わずジャンプしてしまいました」


――直前にソフトバンク千賀滉大選手がノーヒットノーランをしていて、お立ち台ではそのコメントをもじって「僕はお客さんにため息をつかせちゃいそうだなと思いながら投げていました」と。冷静にマウンドにいたことが感じられました。

大野 マウンドにいると、そういうことを考えるんですよね。千賀君も何回にそう思ったのか分からないですが、きっと、「ヒット打たれたら、めちゃくちゃみんな、ため息つくんだろうな」と思ったと思うんです。僕もそれがパッとよぎって、千賀君もこんなことを言ってたな。こういうことか、と(笑)。

――では、ノーヒットノーランもあった2019年シーズンを振り返って率直な思いを教えてください。

大野 昨年が6試合の登板で0勝3敗、防御率が8.56でしたから、言ってみればゼロからのスタート。正直、開幕のときは、自信はありませんでした。新体制となり、与田(与田剛)監督や、阿波野(阿波野秀幸)投手コーチからは「お前のことを信じているから、自信を持ってマウンドで投げてくれ」という言葉をかけてもらっていたんですが……。

――18年は整理できていますか。

大野 メンタル面が弱かったですよね。1カ月に1回単位で一軍に呼ばれたんですけど、3試合目くらいからは、「俺、明後日には二軍にいるんやろな」と思いながら一軍に合流するための荷造りをしていましたからね。マイナスなことばかりが頭をよぎっていましたし、一軍で良いピッチングができる、勝てるビジョンを描けなかった。自信って、難しいんです。抑えて初めて生まれるものなので。「お前はできる」と言われたり、「俺はできる」と考えても、なかなか良い方向には向かいませんでした。

――与田新監督からは「170イニング任せた」と言われたとか。

大野 ゼロ勝のピッチャーによくそんなことを言わはったな、と。ただ、そういうことを言ってもらったからにはやらなアカンと思いましたし、今年1年良かったのは先発ローテーションを守れたこと。本当に170イニングをクリアできた(177回2/3)。それがあったからこその防御率で、投球回数もリーグトップですよね? イニングを投げられることは自分の強みと思っていましたから、誇らしいことです。

久々の侍ジャパン入りで第2回プレミア12に出場する。現在は大会に向けて合宿中で、「どんな場面でも投げます」と頼もしい


――今秋は侍ジャパンに復帰し、プレミア12を戦います。

大野 自分は常日ごろから日本代表を目指して、プレーしていることを公言していますし、日の丸を背負うことは、誇り。呼んでもらったからには、結果を残してこそ。主力中の主力という立場ではないことは理解しています。第2先発、ロングリリーフが持ち場になってくるので、そこで、しっかりできるように。2020年の東京オリンピックは、東京で野球が復活すると決まったときから目指していた目標です。絶対にプレーしたい。今大会でしっかりやれば、その可能性も高くなってくるので、ツメ痕を残したいですね。来シーズンもドラゴンズの一員としてしっかり成績を残すことが日の丸の近道になると思うので、頑張りたいです。

上から投げ下ろすようなダイナミックなフォームが戻る。来季は2ケタ勝利、そして東京オリンピック出場を目標に掲げる


【2019 The Best 1】みんなの想いが……


9月30日阪神戦(甲子園)

 ノーヒットノーランや、久々の一軍勝利などもありますが、タイトルを決めた日の登板も忘れられません。みんながタイトル獲得のチャンスをくれた中での試合。3回1/3を投げて防御率のタイトルが確定したところで交代したんですが、最後、マウンドに集まって、みんなも喜んでくれて本当にうれしかったです。


PROFILE
おおの・ゆうだい●1988年9月26日生まれ。京都府出身。左投左打。京都外大西高では2年夏、3年春夏で甲子園に出場。佛教大では1年春から4年春まで京滋リーグ16連勝を記録し、通算18勝1敗、大学選手権でも好投し、大学No.1左腕と呼ばれるまでに成長。2011年にドラフト1位で中日入団。3年目の13年から3年連続で2ケタ勝利を挙げるなど、左のエースに。18年はゼロ勝に終わるも、今季見事に復活。10勝には届かなかったが、最優秀防御率のタイトルを獲得。2大会連続でプレミア12に出場する侍ジャパンに招集された。
タイトルホルダーインタビュー

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タイトルホルダーの喜びの声やタイトル獲得の背景に迫るインタビュー企画。

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