誰にも止められない足で魅了できる。唯一無二の武器を携えて、NPBの世界に足を踏み入れる。育成からのスタートだが、しがみついてでも、支配下登録を手にし、自らの働き場所をつかんでいく。 取材・文=高田博史(スポーツライター) 
10月21日、DeNAから指名あいさつを受けた。左から中川大志スカウト、村川、武居邦生スカウト[写真=高田博史]
午後7時11分、「選択終了」の文字が映し出され、全12球団が指名を終えた。ここまで四国アイランドリーグplusからは、1人も名前を呼ばれていない。育成ドラフト会議が始まるまで、10分間の休憩がある。記者会見場で周りが席を外そうとする中で、
村川凪は、椅子から立ち上がることができなかった。
「ヤバい……」
まったくの無名だった自分に、NPB6球団から調査書が届いたことは、あり得ないことが起きたと思っている。後期は打率.317を残し、目標としていた盗塁王も獲れた。オレ、よく頑張ったな。そんな達成感を抱き、指名を待っていた。
だが、今は違う。内々にNPB3球団から連絡のあった「ドラフト下位で指名する」という話が覆されてしまった。
「何かちょっと、誰とも話さずに、1人になっておきたいなあって……」
育成ドラフト会議はDeNAから始まる。最初に自分の名前が読み上げられ、思わず天を仰ぐ。カチコチに固まっていた体が、フワッと軽くなった。
「一気に解放されたっていうか。ホントに泣きそうになりました――」
コロナ禍で就職が白紙
幼稚園のころから、駆けっこでは負けたことがない。小学生時代、村川は走って、友だちは自転車に乗って競争するのも、当たり前の光景だった。
四日市大では3年時から主将を任され、東海地区大学野球三重県リーグで2年春、3年秋に(その後、4年秋にも)盗塁王を獲得している。全国的な実績はなかったが、地元・
広島にある社会人企業チームへ就職する方向で考えていた。
しかし、コロナ禍のために・・・
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