鳴門渦潮高は2012年4月に鳴門工高と鳴門第一高が統合して誕生した。グラウンドは鳴門工高を継ぎ、チームを率いるのは指導歴36年の高橋広監督だ。今年9月のU18アジア選手権(バンコク)では高校日本代表を指揮する。02年春にセンバツ準優勝を遂げたベテラン指導者が、じっくりと育成してきた超大型捕手である。 取材・文=岡本朋祐 写真=太田裕史、BBM 県大会決勝で勝利を引き寄せたビッグプレー 四国大会で登録されたベンチ入り20人の平均身長は172.7センチ。グラウンドに目を向けると、
多田大輔は明らかに頭一つ抜けている。
189センチ91キロの立派な体格は高校生離れ。まず、プロ野球のスカウトの目をクギづけとしているのが、遠投100メートルを誇る強肩だ。「ドラフト候補」としての立場を不動としたのが今春、徳島北高との県大会決勝。機動力を得意とする相手の“足攻”を完全に封じた。一塁けん制に、二塁けん制が2度、二塁盗塁も2度刺している。1試合で5回にわたるビッグプレーを、佐藤豪部長はエピソードを交えながら回想する。
「二塁盗塁を仕掛けてきた際には、走者が二塁ベースへ到達する3分の1手前あたりで、すでにベースカバーする野手のグラブにボールが収まっているような状態です」

▲遠投100メートル。二塁送球は1.81秒とその強肩にスカウトも注目する
ある練習試合では、プロ顔負けの頭脳プレーもあった。
一死一、三塁。中堅への飛球で、三塁走者は当然のようにタッチアップで本塁を狙ってくる。1失点は仕方ないにしても、多田はすぐさま頭を切り替え、次の展開を考える。カットマンからの返球を待ち、本塁付近で油断しているように見せかけて、一塁走者のリードオフを見逃さない。スコアブック上では「8-6-2-6」もしくは「8-6-2-3」で、相手走者の一瞬のスキを狙い、アウトを奪ってしまうのだ。視野の広さによって、走者をベースにクギづけにする。
「駆け引きがうまい。これもキャッチャーとしての存在感でしょう。多田の1プレーで、試合の流れを一気に変えることができる」(佐藤部長)。
今年3月に計測した二塁送球は1秒81と、プロ顔負けのスピードだ。08年にプロ入りした
中田祥多(現埼玉
西武)が持つ、1秒74という同校最速を目標に、練習に励んでいる。
指導歴36年目のベテラン指揮官に心酔 抜群のポテンシャルは、血筋によるところも大きい。母・佳世さんは元バレーボール選手。実業団のア
タッカーとして活躍し、国体で準優勝した実績を持つ。多田が幼少時代を過ごした応神町は吉野川北岸の平野部。田園風景が広がるのどかな場所で育った。法大、
ヤクルトほかで活躍した
秦真司(現
巨人バッテリーコーチ)も同町出身。応神小、応神中を通じての先輩であり、捕手が育つ土壌があるのかもしれない。同町は徳島市中心部から吉野川を挟んで約10キロとはいえ、応神中は全校生徒が100人未満の小規模校。野球部員も12人。同校がある「板野地区」において、多田の才能は群を抜いていた。
投手としてすでに軟式ボールで130キロを計測。県大会準優勝の実績を持つも、剛速球をしっかり捕球できる捕手がいないのが実情であった。腰痛も影響して、のちに投手よりも体をひねる動作が少なく、負担が軽減される捕手に転向している。
高校進学に際して、志望校は一つしかなかった。多田が高校へ入学する2012年4月に、鳴門工高と鳴門第一高が統合して鳴門渦潮高が誕生。徳島県の公立で初の体育専門学科(スポーツ科学科)が設置された1期生である。同校を率いる高橋広監督は鳴門工高時代、春夏通じて8度の甲子園出場へ導いている。02年春のセンバツでは準優勝、05、08年夏は8強進出。今年9月のU18アジア選手権(バンコク)では高校日本代表監督を務める、指導歴36年目のベテラン指揮官に心酔したのだ。プロ野球界へも
里崎智也(現千葉
ロッテ)、埼玉西武・中田の捕手のほか、計5人の卒業生を送り込んでいる。
「高橋先生は多くのプロ野球選手を輩出している。自分も続きたい」
名将の下で、英才教育を受けた多田は、才能を本格開花させていく。
成長したポイントは股関節の柔軟性 1年秋にベンチ入りし、2年春から定位置を獲得。準決勝へ進出した同夏の県大会では四番として、12打数8安打、1本塁打、7打点と大爆発している。だが、昨秋は県大会2回戦敗退。そこで明確となった課題があった。鉄砲肩という大きな武器を持つ一方では、上体に頼ってしまう悪癖があり、また、ショートバウンドの投球を後逸する場面も目立った。50メートル走6秒5とスピードはあるが、フットワークを高める股関節の柔軟性を欠いていた。
11月から週2回、専門のトレーナーを学校に呼んで、講習会を実施した。また、同時期は上体頼みの弊害から右ヒジを痛め、11月から3カ月はノースロー。学校周辺10キロを44分以内、300メートルダッシュ10本を各50秒以内という設定タイムで下半身を強化した。2月には高知・春野で行われていた埼玉西武キャンプを見学。1学年上でドラフト1位指名を受けた
森友哉(大阪桐蔭高)のプレーを目の当たりにし、「これがプロレベル。肩の強さだけではなく、送球が正確でした」と、刺激を受けた。「剛」と「柔」を鍛え上げた多田は今春、飛躍を遂げる。
入学以来、初めて県大会のタイトルを獲得し、四国大会は準優勝。全3試合で安打を放ち12打数4安打4打点。決勝では新チーム結成以降、練習試合2戦でまったく歯が立たなかった明徳義塾高・
岸潤一郎から適時打と、成長の跡を残した。目指す選手は、右の強打者としても日米で一時代を築いた
城島健司。進路について「まだ今の力ではプロに届かない。夏の結果次第」と多くは語らないが、高卒で勝負する覚悟はできている。

▲今春の四国大会は準優勝。四番・捕手として全3試合で打点を記録。苦手の明徳義塾高・岸からも適時打(写真
PROFILE ただ・だいすけ●1996年5月25日生まれ。徳島県出身。189cm 91kg。右投右打。城東小から3年時に応神小へ転校し、応神ハリケーンズで捕手兼投手として野球を始める。応神中では投手で県大会準優勝。のちに捕手に転向。鳴門渦潮高では1年秋からベンチ入りし、2年春からレギュラー。準優勝した今春の四国大会終了時点で高校通算15本塁打。