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広島・畝コーチ「一軍で結果を残せない理由は全員共通」

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昨年、27年ぶりの「先発10勝カルテット」を形成し、16年ぶりのAクラス入りを果たしたカープ。今季はそこに大瀬良大地九里亜蓮ら即戦力のルーキーが加入。投手陣には黄金時代を彷ふつさせる「新投手王国」の予感が漂っている。「投手コーチ兼分析コーチ」として22年ぶりにカープのユニフォームに袖を通した畝コーチに話を聞いた。



選手たちの本音が聞きたい


1992年に現役を引退し、以降はスコアラーとしてチームに貢献してきた。今回、「投手コーチ兼分析担当」として、22年ぶりにユニフォームに袖を通したが、「新投手王国」誕生を予感させるチームにどのような影響を与えるのだろうか。

 現役を引退して22年ですか。これまでもスコアラーとしてチームに帯同してきたので、あまり変わりはないと言われますね。でも、やっぱり久々にユニフォームを着ると身が引き締まります。より、選手たちとの距離が近くなったのかなと。日南での1次キャンプでは選手たちから「走りましょう」と言われて走りましたが、それもこれまでなら、ないことなので。ただ、体力はちょっと……ですね(苦笑)。

 選手たちは「スコアラー」から「コーチ」になったことで、話しづらくなるんじゃないかなと思いました。でも、私は選手の本音が聞きたい。スコアラーでは言えたことが、コーチの立場では言えなくなったりすることもあるのかもしれません。やはり、彼らの立場からすればコーチに弱い部分を見せたくないでしょうから。これまでのチームにも関わってきて、いろいろなコーチの方々のやり方を見てきました。善し悪しは別として、それぞれのやり方を見させていただき、とても勉強になりました。その中で、今度は自分の“色”を出さなければいけないと思っています。

 今回、肩書きに加わっている「分析コーチ」とは、要はこれまでの経験を生かすということです。数字やデータの部分はスコアラーに任せていて、私が見ているのは映像の部分。投球フォームの映像を2つ並べたり、重ねて見せたり、いままで築き上げてきたカープ独自の分析システムを用いて、選手に「ここが、こうだよ」と伝えてあげることが私の役目です。そのアドバイスをどうするかは個々人の判断ですが、少しでもヒントになるようなことを教えられれば。私の所へ来る選手は、どこかに迷いや悩みを抱えています。悩んでいる選手というのはどうしても視野が狭くなってしまうので、私が声を掛けることで、少しでも視野が広がってくれればいいと思っていますね。

 やっていることはこれまでと大きく変わりません。だから、気軽に私の所を訪ねてきてほしいですね。今年のキャンプではまだ数人でしたが(苦笑)、徐々に変わってくると思います。でも、これまで技術的な指導はコーチを通してしかできなかったのが、いまは直接言うことができる。それは大きな違いですね。

小さなことでもレベルアップを感じる


2013年、エース・前田健太を中心とする先発陣から、27年ぶりに10勝投手が4人誕生。チームは16年ぶりのAクラス進出を果たしたが、大竹寛がFAで巨人へ移籍。その穴を埋める先発投手と左腕投手の台頭が、投手陣の課題となっている。

 大竹が巨人へ移籍して、その穴を埋めようと新人の2人(大瀬良大地、九里亜蓮)が強烈なアピールをしてくれていますが、本音を言えば、これまで一軍に上がったり下がったりだったピッチャーたちに頑張ってもらいたい。長くチームを見ている分、どうしてもそっちへ目が行ってしまいますし、ルーキーに大きな“荷物”を背負わせることは酷ですよ。

大瀬良[写真左端]、九里[同2人目]のルーキーコンビら才能あふれる若手投手陣を、山内コーチ[同3人目]とともに指導していく



 マエケンや野村(祐輔)、ベテランピッチャーたちは、自分が何をすればいいかをしっかり分かっています。じゃあ誰が頑張らなければいけないか、近年のチームを顧みたら、野村(謙二郎)監督も、選手たちも分かっていると思います。

 具体的には、左の先発。ここに1人か2人台頭してくれば、かなり先発のローテーションを組みやすくなる。篠田(純平)、齊藤(悠葵)、中村(恭平)、戸田(隆矢)、彼らは先発として期待している部分もあるので、早く上で投げられるところまで状態を上げてきてほしいです。

 一軍で結果を残せない理由は全員に共通していて、思ったところに投げられないこと。もちろん、すべてを完璧なコースへ決めろというわけではありませんが、あまりにも自分のイメージと実際にボールを投げたコースがかけ離れてしまっている。それでは一軍で投げることは難しいのです。プロでは球が遅くても結果を残しているピッチャーはたくさんいる。では、なぜそのピッチャーたちが勝てているのか。そこをもっと考えてほしい。自分がどういうピッチャーなのかを理解することが大切なのです。

 今年から支配下契約を結んだ池ノ内(亮介)は、昨秋のキャンプで良いシンカーを覚えました。直球は140キロ後半で、力のあるボールを投げる。じゃあ、それらを生かしてどういうピッチャーになろうかと考えたとき、「カープにいないシンカーピッチャーになろう」という答えにたどり着きました。いまはまだ二軍にいますが、オフからそこを意識して厳しいトレーニングをしてきたと聞いているので、シーズンのどこで一軍に上がってくるか楽しみにしています。



 もちろん、すべての選手に期待していますが、個人的に楽しみな選手は4年目の福井(優也)。キャンプ、オープン戦となかなか実戦で結果が残せていないのですが、確実に階段を上っています。昨年は中継ぎをやったりして、気持ちの整理がつかない部分もあったと思う。今年は先発へ戻って、しっかりと打者と向き合うことができていますね。

 キャンプを通して彼に伝えてきたことは「キャッチャーに向かって投げなさい」ということ。少しレベルが低いと感じられるかもしれませんが、彼はまだ「ストライクを取るだけでいっぱいいっぱい」だと思っているんです。本当はもっと高い能力を持っている。なのにいつまでも停滞しているので、キャンプ中に「もうその段階は過ぎた。次はバッターをどう打ち取っていくかを考えなければいけない」と伝えました。まずは精神面から。前へ進んではいるので、あとはそこで出てくる課題を一つひとつクリアしていくだけ。彼自身、勝負の年だと位置付けていると思うので、期待しています。

 あとは同じ4年目で中継ぎの岩見(優輝)。彼もまた、殻を破ろうとしているピッチャーで、あとはクイックでしっかり投げられれば十分一軍でやっていけます。ただ、沖縄キャンプでの実戦では本人があまりにもクイックを意識し過ぎたことで少しフォームを崩してしまいました。彼にとって少し遠回りをさせてしまったかもしれないので、こちらとしても反省しなければいけない点でしたね。

 昨年から大きく伸びた選手を挙げると、中田(廉)でしょう。クライマックスシリーズで巨人を相手に投げたことや、オフにマエケンと一緒に自主トレをしたことで意識の部分が変わったのでしょう。それに加えて体も絞り、大きな体格(189センチ90キロ)ですが、動きやすい体になった。それが投球にも好影響を与えていると思います。

 たとえ、調子が上がらない時期があっても、選手たちには迷走していると思ってほしくない。どんなささいなことでもいいので、その日の練習、試合を投げた後�▲好謄奪廛▲奪廚靴燭隼廚辰討曚靴い任后�修譴���砲弔覆�蝓▲團奪船鵐阿妨修譴討�襦3里�坊覯未�澆靴い箸いΦせ�舛睚��襪鵑任垢�△垢戮討�覯未砲弔覆�襪錣韻犬磴覆い箸いΔ海箸睚��辰討曚靴い任垢諭�

今春のキャンプでは、積極的にナインへ声を掛けながら、時には自らも率先して汗を流した



チームが苦しいときに力を発揮できる選手を


若手、中堅選手の奮起を促しているのは、ルーキーたちの存在にほかならない。早くも新人王候補の呼び声高いドラフト1位・大瀬良と同2位・九里の大卒右腕コンビ。そして、社会人・ニチダイから4位で入団した西原圭大の3人は、キャンプから一軍に帯同し、猛アピールを続けている。

 新人のピッチャーたちが頑張ってくれていることはチームに良い影響を与えています。大瀬良はパワーピッチャーで、体のキレがすごい。体を回転させていくときに、重心がブレないんですよ。直球はもちろん、スライダー、カットボールといった変化球も良い。あと、侍ジャパンの合宿でも評価されたというカーブも、縦回転でスピンが利いていて素晴らしいですね。あれだけのボールがあれば、緩急の組み立てもできるし、一軍でも結果を残してくれると思っています。ただ、対外試合デビューとなった阪神とのオープン戦(2月22日、コザしんきん)で、かなり緊張していたことには驚きました。試合後に話を聞いたら「めちゃくちゃ緊張しました」と(笑)。それでも、しっかり試合をつくったところはさすがでしたけどね。

 九里はとにかく球種が多い。真っすぐに、ツーシーム、チェンジアップ、スライダー、カット、カーブ、それらをしっかりと低めに集めることができるので頼もしいです。大学(亜大)時代に主戦として投げてきただけありますね。練習でも「良いところを見せよう」ではなく、自分のやるべきことを分かっている。ここまでの実戦でも四球が少なく、大崩れもしていませんから。ただ、やはりというか、どうしても大瀬良を意識してしまう部分があると思うので、そこは気を付けながら見ています。キャンプでも大瀬良がブルペンで投げた後、ファンの方がゾロゾロと立ち去ってしまう場面があったんですね。そういうときは「気にするな。これからファンを引き付けていくピッチングをしよう」と言いました。本人も理解していると思いますし、おそらく開幕で先発ローテに入ってくる2人が切磋琢磨してくれることを期待しています。



 社会人出身の西原も変則右腕という“色”を出してくれているので楽しみです。しっかりと腕を振って打者のインコースを突くという持ち味を出してくれれば、一軍で結果を残すのではと思っています。

 今年のカープには、先発、中継ぎ、抑えと要所に良いピッチャーがそろっています。ただ、全員がシーズンを通して絶好調を維持できるかと言えばそうではない。チームが苦しいときに力を発揮できるようなピッチャーを育てて、投手陣全体のレベルを底上げしていけるように頑張りたいです。

 周囲からは「投手王国の再来だ!」と言われ、プレッシャーを感じることもありますが(苦笑)、チームの勝利に貢献できるピッチャーを1人でも多くマウンドへ送り込みたいですね。

PROFILE

うね・たつみ●1964年6月21日生まれ。広島県出身。広島工高から専大、NTT関東を経て、89年ドラフト3位で広島入団。現役通算4年間で7試合に登板し、0勝0敗0セーブ、防御率10.57。92年に現役引退後、昨年まで球団スコアラーを務め、今季から投手コーチ兼分析コーチに就任した。

この若手に注目!
篠田純平


1985.4.20生/187cm86kg/左左/前橋育英高-日大-広島07年1位=7年【2013成績】一軍



 若手というには少し年齢が上かもしれませんが、今年の篠田はかなり状態が良くなってきていますね。自主トレをこれまでと違う場所(石垣島)、メンバー、やり方でやったり、「変わらなきゃいけない」という思いが、キャンプ、オープン戦の中で随所に感じられました。

 一方で、ただガムシャラにやるわけではなく、自分がすべきことをしっかりと把握している。キャンプでは、全体練習の後にも積極的にトレーニングを行う姿をよく見ました。トレーニングをやらなきゃ不安な気持ちがあるのかもしれませんが、意識が格段に変わりましたね。直球にもキレがあるし、0勝に終わった昨年からは見違えるほど良くなっています。それだけに、あとは結果を残してほしい。今年は背番号も「14」から「21」へ変わり、年齢的にも「若手」の域を脱するべきところにあるので、ひと皮むけるチャンスをつかんでくれと思っています。

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