最下位に沈んだ2014年から優勝した2015年、大きく変化を見せた数字が“守備力”だった。2014年の97失策、守備率.982はリーグ5位。転じて15年は71失策、.987はリーグトップだった。真中満監督の就任と同時に二軍から一軍内野守備・走塁コーチに昇格した三木肇コーチは、一体チームの何を変えたのか。 取材・構成=阿部ちはる、写真=小山真司 一人ひとりを知り、選手と歩む3年計画
指導歴8年で2球団目。どちらの球団でも一軍コーチに昇格した年に優勝を果たしている。もちろん、多くの要因が絡み合ってのことだが、三木肇コーチがその栄光へと導いたひとりであることは間違いない。若さと人柄を生かした親身な指導は、選手たちの「観察」と「会話」から始まる。 指導するにあたって自分がブレちゃダメだと思うんだよね。そう考えると、今こうやって思い切ってできているのは、自分が選手時代に
ヤクルトで監督を務めていた
野村克也さんをはじめ、
若松勉さん、
古田敦也さんの影響がすごくあると思う。その中でも、根底にあるのが野村さん。僕の考えの基礎にもなっているし、選手時代にミーティングなどで学んだ野球の土台がしっかりあるから、ブレずに指導ができているんだと思う。野村監督に教えてもらったことに今でもすごく背中を押してもらっているし、自分を支えてもらっている。「野球は考えてするものだよ」とかね。僕は本当に出会いに恵まれているなあと思うよ。
野球選手はゴルフやテニスなどと違ってコーチを選べないよね。別にそれがいけないと言っているわけではないんだけど、だからこそ、選手と真摯に向き合って、自分ができることは目いっぱいやっていきたい。縁があって一緒に野球をするわけだからね。
その中で、気をつけていることは、「“対1人”で話をする」ということ。コーチにとっては選手は対何人、だけれども、選手にとっては対1人のコーチ、だから。その選手の専属コーチだと思って相談にも乗るし、アドバイスもしていくから、自然とそれぞれにかける言葉は変わってくるよね。
僕は“きっかけ作り”が仕事の一つだと思っている。そのためにもダーッと流れないで、ポイントポイントできっかけとなる言葉をかけることができたらいいなあと。
だからこそ、しっかりしたコーチとしての目で選手をしっかり見る、観察するということを念頭に置いている。言ったからOKではなく「言ったことが伝わったかどうか」が大事。そのためにタイミングはすごく計ってるね。選手にも、自分の間合いとかタイミングもあるだろうし、言われたくないときや言っても話が入っていかない時期、時間とかがあると思う。だから、その選手は今どういう状態なのか、何を考えているのか、しっかり観察して言葉を選んで話すことは心がけている。もちろん、この事柄に関しては言葉を選んでる場合じゃないなと思ったら気持ちでぶつかるけどね。
そのためにも“話せる関係性”をしっかり作りたい。コーチと選手なのである程度の線引きみたいなものは必要になってくると思うけど、自分のことも知ってもらいたいし、自分も一人ひとりの選手を知っていきたい。とにかくたくさん話をしながら関係を作っていきたいと思っている。仲良くなりたいと言うと語弊があるけど、簡単に言ったらそんな感じかもしれないね。
僕は「一緒にうまくなろうよ」というスタンス。プレーするのは選手だし、選手が成長できるようにいろいろ話し合ってうまくサポートしていくことが仕事だけど、選手からいろんな話を聞かせてもらって、僕も成長していきたい。そうしながらチームを強くしていきたいと思って今もやっている。
指導するにあたって、能力が高い選手は別かもしれないけど、一軍で通用するレベルになるまでには3年くらいはかかると考えている。そのために逆算して練習メニューとか、3年間のプランを一人ひとりに立てている。だからこそやり方や練習方法とかは、自分でいろいろ編み出していかないといけない。杉村(繁)さんのティーのようにね。杉村さんは30種類以上あるというけど、きっとこれからもっと増えていくと思うよ。
それと同じように、守備や盗塁については僕もいろいろ編み出し中。結構たくさんできてきたけど、きっと完成することなんてないから、いつも考えているよ。選手とも一緒に考えて工夫しながら、具体的なものを見つけてしっかり2人で練習していく。それがすごく大事。目的を持って具体的に練習していかないと、ただ数をこなすだけでは意味がないから。
だからこそ、「会話」が必要になる。選手にはそれぞれ今まで関わってきたコーチたちからさまざまな指導を受けて、いろいろな考えが身についているから。その選手が何を思っているのか、自分がどう思っているとか話をしながら、その選手が生かされる、成長できる練習をしていかないといけないからね。