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育ての流儀〜NPB現場指導者に聞く〜

西武・辻竜太郎(二軍野手チーフコーチ)二軍から『打破』を目指して「選手を成長させて、チームが強くならないといけないと痛感しています」

 

「育成のライオンズ」を標榜する西武にとって、ファーム組織の充実がチームの未来を左右する。二軍では今季から辻竜太郎コーチが「野手コーチ」から「野手チーフコーチ」に。二軍野手コーチを統括しながら、チームのテーマであるフィジカル強化を遂げて一軍で通用する打者の育成に力を尽くしている。
取材・文=小林光男 写真=BBM

西武・辻竜太郎[二軍野手チーフコーチ]


提供されるおいしい食事


 ひと口に育成と言ってもコーチの力だけで成し遂げられるものではない。昨年、オリックスから西武に移り、二軍野手担当として指導した辻竜太郎コーチはあることに驚いたという。

「移籍してきた選手もみんな言いますけど、『若獅子寮の食事ってやばいよね』って。本当においしいんですよ。栄養のバランスもよく考えてくれていますしね」

 プロ野球選手は体が資本なのは言うまでもない。そのために食事は重要。おいしい食べ物が並べば、食堂に足を運ぶのが苦ではなくなる。辻コーチは「食事会場が非常に楽しいイメージがある」とも言ったが、時に選手とコーチ陣が同じテーブルを囲んで会話がはずむ。指導において、自分の考えを押し付けることなく、コミュニケーションをとって選手と一緒に考えていくことを重要視する辻コーチにとって、それは大きなプラスとなっている。

 もちろん食事だけではない。パフォーマンスグループやS&C(ストレングス&コンディショニング)など、多くのチームスタッフが若手の技術向上のために心血を注いでいる。

「設備投資をして環境を整えてくれてもいますし、すごくありがたいです。球団全体のバックアップが素晴らしい。どのような環境にいてもそうでなくてはいけないんですけど、多くの方々の熱意が伝わってくるので、コーチとしては絶対に選手を成長させて、チームが強くならないといけないと痛感しています」

 新天地での1年は「あっという間に終わった」という。そのなかでも成長の跡を見せた若手が数多くいた。

「ライオンズの選手は非常にかわいいというか(笑)。みんな『これはどうしたらいいですか』って気さくにコーチに声を掛けてくる。そういう会話ができるのはいいところだなと感じますね。あとはあいさつにもびっくりしました。めちゃくちゃあいさつをしてくるなと思って。習慣になっているんでしょうね。本当にちゃんとあいさつしてもらえるので、こっちも気持ちいいです」

 ライオンズには人財開発担当もおり、思考の面から若手の育成を支えている。その根幹となるあいさつは非常に重要。辻コーチも同じ考えだ。

「日常生活にしても、野球の試合にしても、ルールを守ることをきっちり教えることが育成だと思います。うるさいと思われているかもしれないですけど、簡単に言うと『スリッパをきれいに並べなさい』と。打撃練習が終わったときにボールを拾ってくれているスタッフの方がいたら、きちんと『ありがとうございます』と言いなさいとか。野球がうまくなるだけでなく、そういったことも教えていかないと意味がないと思います」

一つのことをやり抜く力


 松商学園高、明大を経てヤマハから2002年ドラフト8巡目でオリックスに入団した辻コーチ。04年には52試合に出場して打率.325の高アベレージをマークしている。同年オフに球界再編によって誕生した楽天に移籍。08年には打撃コーチ兼任でBCL/信濃へ。ここから指導者生活がスタートした。試行錯誤を重ね、いろいろな指導者からも学びを得て、コーチとして成長していったが、伸びていく若手に共通する特徴を聞くと「一つのことをやり抜く力」と答えが返ってきた。

「それが尋常じゃないです。打つためにはどうすればいいのかと逆算していったときの執着。これがいいのではないかとなったら、ずっとやり抜く。飽きずに続けることはなかなかできるものではないです」

 オリックス入団時には室内練習場の壁に穴があいた箇所を見せられ、イチロー(当時マリナーズ)が夜中に来て一人でずっと打撃練習を続けていたと聞かされた。吉田正尚(現レッドソックス)も傍から見たら滑稽に映るようなことでも必死になって練習していた。ライオンズには栗山巧がいる。昨年は二軍で過ごす時間が長かったが、決して手を抜くことはない。辻コーチとはドラフト同期でもあるが、25年も現役としてユニフォームを着続けていることに関してリスペクトの念を抱く。彼らは決して天才ではない。努力の塊だからこそ一流へと上り詰めた。その大切さも若手には伝えたい。

辻コーチは現役時代、オリックス[写真]、楽天でプレー。NPBでは通算6年で209試合に出場し、打率.261、9本塁打、44打点をマークしている


速いボールを体感させて


 今年から肩書きは二軍野手チーフコーチに変更となった。その理由を広池浩司球団本部長は「球団方針である『フィジカル強化』について自身の成功体験を生かして、技術との連動を重視した指導をしており、チーフコーチとして選手一人ひとりの成長を後押ししてくれることを期待しています」と説明した。

 辻コーチは新たな役割をこのように考えている。

「小関(小関竜也)ファーム監督と二軍野手コーチの間に入って、それぞれの意見を聞いて、チームがうまく回るようにしたい。フィジカル強化も継続しなければいけないので、S&Cと連携して、それを成し遂げるようにもしないといけません」

 辻コーチは打撃指導がメインになるが、一軍で数字を残せる打者を育成することも大きなテーマだ。

「まずは速球を打ち返せるようにならないといけません。昨年のシーズン中から個別練習で取り入れた選手もいたんですが、ハックアタックという高性能な打撃マシンを使っています。まず150キロに設定して3メートルほどの近さに置いて打撃練習。ボールが出た瞬間に打つような感じですよ。それはバットに当たらなくてもいいので、とにかく速さを頭と体に植え付けるのが目的です。そこから、5メートル、10メートル、最後は13メートルまで下がる。近い距離を体感しておくと、13メートルも離れればボールが遅く感じますよ。昨秋のフェニックス・リーグからは全選手、120キロに合わせて13メートルの距離で打撃練習をするようにしています」

 メジャー経験者の速い直球を打ち返すには“慣れ”が必要だという考えに触れたことがきっかけだ。世界最高峰の舞台で打席に立ち、160キロ近い剛速球と対峙した結果、打撃において余分なものが削ぎ落され、シンプルになった。日本球界に復帰した際にはボールが遅く感じるようになっていたと聞かされたという。

「速いボールに対して『もっと、お前、アタックして打たんか!』と言っているだけではダメ。まずは慣れないといけませんから」

 今季のチームスローガンは打破。チームが殻を打ち破ったと言えるのは、最低でも一軍が3年連続Bクラスから脱却して、クライマックスシリーズで最後まで日本シリーズ進出をかけて争う状態だと考える。

「そのために一軍投手が投げる150キロを超える直球を強い打球で打ち返せるような打者をファームで育成しないといけません」

 辻コーチがライオンズのファームで手腕を発揮する2年目が間もなく始まる。

昨年に続き、今年も二、三軍は高知・春野で2月1日からキャンプイン。チーム全体で育成に力を注いでいく


PROFILE
つじ・りゅうたろう●1976年6月8日生まれ。大阪府出身。松商学園高、明大からヤマハを経て2002年ドラフト8巡目でオリックス入団。選手時代の登録名は「竜太郎」。04年オフには分配ドラフトで新球団の楽天へ。07年限りで退団すると08年からはBCL/信濃で打撃コーチ兼任としてプレー。14年限りで引退。15年からはオリックス、25年からは西武でコーチを務めている。
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