グラウンドで白熱のゲームが繰り広げられているその裏側、硬いフロア張りの球場の通路を黙々と走る姿がある。ファンの前でプレーするのはわずかな時間かもしれない。だが、その一瞬に全力を尽くすべく、赤松真人は今日も準備を欠かすことはない。 取材・構成=吉見淳司、写真=BBM 
6月14日の西武戦[マツダ広島]では6年ぶりのサヨナラ打。抗議の末にアウトの判定が覆り、自慢の俊足で、グラウンドを駆け抜けた
今季、セ・リーグをまさに席巻した広島。圧倒的な強さで25年ぶりの悲願を達成したチームの強さの秘訣は、野手でいえば
田中広輔、
菊池涼介、
丸佳浩の上位打線&センターライントリオに代表される不動の存在だろう。
この3人だけでなく、
新井貴浩や
鈴木誠也ら、スターティングメンバーにおなじみのメンツが顔をそろえるベンチの中には、赤松真人の姿も常にあった。
今季は4月6日に一軍昇格。以降、一度も二軍に落ちることなく85試合に出場しているが、先発はゼロ。それどころか、最後のスタメンは2014年8月9日の
阪神戦[京セラドーム]にまでさかのぼる。
赤松の名前が
コールされるのは、試合が佳境に差しかかったころ。勝敗を左右する1点を奪う、あるいは守るため、明確な使命を与えられて緊張感の漂うグランドへと姿を現す。
代走、守備固め、そしてときには代打として活躍するスペシャリストがいかにその立場を築き上げたのか。その足取りを追ってみよう。
レギュラーと控えを分ける要因
05年、阪神にドラフト6位で入団した赤松はファームで打率.363、7本塁打、29盗塁をマーク。ウエスタン・リーグで首位打者、盗塁王、最多得点、最高出塁率を達成するなど、早くもその才能を発揮していた。
だが、それだけの数字を積み上げたのは、一軍で出番がなかったからとも言えた。
赤星憲広、
金本知憲、
鳥谷敬、
今岡誠ら、そうそうたるメンバーがそろう当時の阪神は、完全に一軍メンバーを固定していた。23歳のルーキーが入り込む余地はなく、チームのリーグ優勝も、どこか遠い場所での出来事だった。
「胴上げしているのはテレビで見ただけですね。どこだったかな?寮だった記憶があるんですけど……。本当に別世界でしたね」 チームの一員として、リーグ優勝達成を肌で感じられたのは、同年10月4日の横浜(現
DeNA)戦[甲子園]で一軍初出場を果たしてから。すでにリーグ優勝が決まった後の消化試合だったが、
「ファンの方は優勝したチームとして見に来ている。そこですごくプレッシャーを感じました」と回想する。
06年、07年とファームではタイトルの常連だったものの、一軍には定着できなかった。07年オフには虎風荘を退寮し、入籍。「レギュラーを獲って明るい家庭をつくっていきたい」と4年目の飛躍に闘志を燃やしていた矢先、突然の知らせが舞い込んだ・・・
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