相手バッテリーも球場のファンも分かっているのに……代走で起用されると必ず盗塁を決める。そこには強じんな精神力があり、結果を残し何より先発で出たい思いが強い。そのための準備は誰よりも多くこなし、できることはすべて試す。すべては大好きな野球を1年でも長く続けるため。 文=佐井陽介(日刊スポーツ) 写真=早浪章弘、毛受亮介、石井愛子、BBM 
代走の切り札的存在で終盤の攻撃には欠かせないピースとして存在感を発揮している
二塁で勝負したい
熊谷は4年前、
阪神の若手選手たちが暮らす「虎風荘」に入寮する際、背番号7のユニフォームを持参している。
縦縞ではなく、白色ベースの無地。
今岡真訪や
糸井嘉男といった虎の大先輩のレプリカではない。それどころか、プロ野球選手のモノでもない。背中には「RONALD」の文字。当時レアル・マドリードのMFとして世界を沸かせていたサッカー選手、クリスティアーノ・ロナウドの大ファンだったのだ。
しかも、推しポイントは端正なルックスやゴール量産のプレースタイルではなかったから面白い。
「たまたまドキュメンタリー番組を見たときがあって。あれほどの超スター選手でも陰では信じられないほどトレーニングをしているんだなと知って、好きになりました。人前では努力していないように見せて、家ではサッカーのことだけを考えている。一スポーツ選手として、そういう部分にあこがれたんです」 ある意味、これもチーム屈指の努力家として知られる男ならではの視点なのかもしれない。
今、26歳になった背番号4の1日は誰よりも早く始まる。甲子園ナイトゲームの当日は選手一番乗りで午前10時に球場へ。クラブハウスでシャワーを浴び終えると、1人きりのルーティンをスタートさせる。体幹トレーニング。マシン打撃。ランニング。さらに今年からは「壁当て」も日課に取り入れた。
甲子園の一塁側室内ブルペンには細い柱のような壁がある。正午を過ぎる時間帯になると、まだ薄暗い空間に「コンッ、コンッ……」と衝突音を響かせる。
「秘密の練習なので、あまり知られたくはないんですけどね(笑)。あれほどの名手でも基本をすごく大事にしているんだと知って、基本を継続しないとうまくなれないと気づいたんです」 広島の
菊池涼介が主催する静岡合同自主トレに初参加したのは今年1月のことだ。6学年上の先輩とは面識ゼロ。すでに「菊池塾」の一員だった
中日の
三ツ俣大樹を通じて、半ば押し掛けのような形で塾生入りを志願した。
「もともと一緒にやらせてもらいたい気持ちはずっと持っていました。二塁手で右打者という共通項もあったので」 正直に言えば、背に腹は代えられない事情もあった。
大卒1年目の2018年は両打ちに挑戦も成功ならず。右打ち専念に戻した19年は一軍出場ゼロに終わった。前年の20年も38試合出場。21年は自己最多の73試合出場で7盗塁を記録したものの、代走や外野の守備固めがメーンで打率は0割0分0厘だった。その上、本職と言える二塁出場はわずか3試合。「内野で、二塁で勝負したい」。湧き上がる熱量をぶつける相手は、どうしても頂点の人にこだわりたかった。
「日本を代表するほうなので最初は緊張感がありましたけどね。最後のほうはちょっといじってくれたりもして、うれしかったです」 突撃入門のかいあって・・・
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