いまや球界屈指のクローザーだが、さまざまな経験が自身の糧となり、成長してきた。抑えて当たり前と思われがちなポジションで、重ねてきたセーブ数は節目の「200」に接近中。これからも変わらず、チームのために腕を振る。 文=田口元義(フリーライター) 写真=桜井ひとし、井沢雄一郎、BBM まさか自分が……
見慣れない光景。
8月30日の
オリックス戦(楽天生命パーク)は、まさにそんな幕切れだった。
1点リードの9回に、楽天不動の守護神がマウンドに上がる。
先頭の
中川圭太を空振り三振に打ち取り、リズムを整える。ところが、そこから2者連続でフォアボールを許し、二死一、二塁から
西村凌に逆転ツーベースを許した。
松井裕樹は、敗戦投手となった。
セーブシチュエーションでの救援失敗は今シーズン初めてだった。42試合で27セーブ、防御率1.76と安定感を誇る守護神は、どの成績より
「セーブ失敗を限りなくゼロに近づける」ことを掲げている。
メディアがこの痛恨を記事にする。負けたことが取り上げられるのは、それだけ松井裕がクローザーとして認められている証左でもある。
それは宿命だ。本人もその話題になると、毎回苦笑いを見せながらも受け入れている。
「当たり前に抑えることを求められるポジションですからね。打たれて負けると、『普通じゃないことが起きた』って思ってもらえるってことですよね。自分の中では、『失敗しなければチームはもっと上の位置に行けるのに』とか、もったいないなって思いますけど、家に帰って、寝て起きたら『今日も試合あるし』って引きずらないようにしています」 松井裕は
「打たれた次の登板は、すごく気合いが入りますよね」と胸の内を話していた。それはすなわち、同じ失敗を繰り返さないことの決意表明であり、通算193セーブ(9月1日現在)を挙げ、楽天で絶対的な地位を確立できた背骨でもある。
プロ9年目。足跡をたどると、ふと
「まさか自分が……」と脳裏をよぎる瞬間がある。
「抑えとして投げているのは、もちろん想像していなかったですよね。楽天に入団したときは、先発ローテーションで投げるイメージがありましたし。そこが人生の面白いところですよね」 松井裕はそう言って笑っていた。
プロでのキャリアだけではない。松井裕は先発でこそ輝けるピッチャーだと・・・
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