躍動感あふれるフォームから伸びのあるストレートがミットに突き刺さる。最速150キロ超を誇り、金足農高で旋風を起こした右腕が、昨オフにトレードで新天地に移り復活の狼煙を上げるシーズンとなった。フォーム変更、新球習得、仲間、考え方──。躍進を呼んだものは多岐にわたる。 写真=牛島寿人 飛躍の裏に思考の変化
伸び上がる直球、新しく覚えた変化球──。苦しさを乗り越えた男が、新天地で再び輝きを取り戻した。昨オフに
日本ハムからオリックスにトレード移籍して送った充実の1年。今季は一軍を主戦場に、50試合に登板して4勝0敗、防御率3.32の成績を残した。
「もともとは、バッターの反応を見てテンポを変えたりするのが結構、好きだったんです。でも、オリックスに移籍したタイミングでは、まだまだそのレベルに達していませんでした。逆に、もっと(ピッチングを)難しくしている気がするなと思ったんです。考え過ぎもよくないんだなと……。そう考えれば考えるほど、良い結果が出たので、今年に関しては間違っていなかったのかなとは思っています」 “考え過ぎない”は、マウンド上のしぐさにも表れる。バッテリーを組んだ
若月健矢、
森友哉の両捕手からのサインに首を振らなくなった。
「今まで、ずっと野球をやってきているので、セオリーは分かるんです。だから、その逆ばかり考えてしまって、自分でもよく分かんなくなってしまう場面がありました。自分の中で迷いながら投げていたら、誰と勝負しているのか、分からなくなってしまって……。『移籍を機に』ではないですけど、キャッチャーの意図を信じて投げるようにしました」 バッテリー間の18.44メートルの距離にあった悩みが消えた。
「キャッチャーが真剣に考えてくれているサインに『意図』を感じ取れている自分がいたんです。この場合はこうだな、とか。球種が少し増えたので、選択肢は増えましたけど、結局、最後に選べるのは一つだけ。直球、フォーク、スライダー、カーブ、チェンジアップ……。どれを選んでもらってもいいように磨くだけ。そういったことを肌で感じる1年ではありましたね」 今季から本格的に投げるようになったチェンジアップ、シュートが加わり投球の幅が広がった。加えて躍進の秘密は、マウンドでの“思考の変化”にあったと明かす。
「チェンジアップを生かすためなのか、シュートを投げさせたいためなのか、と考えたほうが(意図が)はっきりして、自分の中でも割り切って投げられるようになったんです」。投手と捕手の共同作業を楽しんでマウンドに上がったことが躍進を呼び、捕手の意図に従うことでマウンドでの迷いが消え、ボールに魂を込めることだけに集中できるように。今年6月4日に一軍に再昇格してからは16試合連続無失点の快投、そのままシーズン最終盤まで安定した投球を続けた。
「前半戦で自責点4のピッチングもあったんですよね。出場選手登録を一度抹消されたあとは、数字をすごく気にしていました。体の状態も、ずっとよく保って、ストレートの球速と球威が上がっているのが、自分でも理解できていました。でも、もっと威力は欲しいですけどね。そうしたら、もっと変化球が効いてくると思いますし、ストレートだけでも勝負できるようになるんじゃないかと思っています」 野球少年のように目を輝かせ、毎日マウンドに向かったシーズンは、仲間と流した汗を思い出す、原点回帰の出来事もあった。8月9日、母校・金足農高と西日本短大付高の甲子園1回戦を現地観戦・・・
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