類いまれなバットコントロールで存在感を示し勝負強い巧打でリーグ3連覇にも貢献。昨季は2度の足のケガで苦しむも、長い二軍での調整期間中に新しい打撃の感覚をつかんだ。プロ7年目──。これまでとは異なる逆転の発想で新境地を拓く。 取材・文=北野正樹 写真=牛島寿人 打撃の新たな方向性
災い転じて福となす。2度も太ももを痛めて、60試合出場にとどまった昨季。長い離脱が、これまでと180度異なる新しい感覚でのバッティングの取り組みにつながった。
「2022年からずっと一軍にいましたが、そのときには得られなかった練習方法やトレーニングを昨季はできました。打撃の方向性も見えた、すごくいい期間だったんです。野球を始めてからずっと、ピッチャーに対してどの方向に打とうと決めて、その中で対応してうまくコンタクトをしていくという感覚でやってきました。こういう打球が打ちたいから、こういう体の使い方をするという考えでしたが、今はこういう体の使い方をすれば、こういうスイングができた。だからこういう打球になったという感じですね。根本のところから真逆のことをやっています」 難しい話のようだが、中川にとっては極めてシンプルな考え。初めから結果を求めてボールに対応する打撃ではなく、自然な体の使い方をすれば勝手にボールが飛んでくれ、結果としてボールに対応できるというわけだ。
「ぱっと思いついたんです。やってみたら、そのほうが体がうまく動いたんです。プロで成功している人はもともと、そういう考えかもしれませんが、僕の中では野球を始めてから、初めての感覚なんです」と、新たな取り組みを説明する。
巧打のイメージから、器用な選手で新しい打撃のイメージもすんなり身に付けてしまいそうだが、本人からは
「全然、器用じゃないですよ」と意外な答えが返ってきた。
「今まで、そっちに打とうとして考えて打っていましたが、それしかできなかったんです。右に打ちにいって、そこから引っ張ることができないんです。それをできる人は、やっぱりタイトルを獲っています。そういうところを考えたら、もう逆の発想しかなかったんです。器用じゃないんで、1度そうやってみたら、どうなるかやってみたかったんです」と明かす。
成果を試すチャンスが、昨年の秋季キャンプで訪れた。
高橋信二二軍打撃コーチの発案で、キャンプ終盤まで徹底された、進塁打やフライを禁止し、逆方向へライナーやゴロで野手の間を抜く打撃練習。意識してテーマに沿った打撃をしようとする選手に対し、中川は自然なスイングで対応してみせた。
「やりたいと思って取り組んできたことがつながっているから、ゴロを打ちにいこうとしなくてもゴロが打てるんです。意識してゴロや右打ちをしてしまいがちなんですが、それをしちゃうとやっぱり打撃が崩れちゃうんですよ。体の使い方さえ覚えていれば、勝手にそういう打球が打てるようになるんです。あとは、結局(ボールとバットが)当たるのがインパクトなんで、その入り方をどういうふうにしたらゴロになるよね、フライは上がらないよね、と。自分がやりたいことと、チームとしてやっていることがマッチして、ムダがないんです」。新しい打撃イメージの方向性を確かなものとした瞬間だった。
大阪府阪南市出身。泉佐野シニアで本格的に野球を始め、PL学園高、東洋大を経て19年にドラフト7位で入団。PL学園高時代は部の不祥事で対外試合禁止に追い込まれ・・・
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