経験が培ってきた責任感、大きな声がトレードマークの27歳。1年目は一軍で29安打を放つも、以降は壁の高さを実感してきた。それでも周囲の意見や考えに学び、前向きに歩み続けることが身上だ。積み重ねた努力の先につかみ取る、チャンスは今、目の前に──。 取材・文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=井沢雄一郎、BBM 曲と言葉に背を押され
この歌詞に、希望ばかりを感じてはいない。同時に、いくらかのシビアさも感じている。究極の競争社会に身を置く男の「さだめ」なのかもしれない。
『君も僕もチャンスは平等 自分を信じて ただじっと待てばいい 君も僕もチャンスは来るんだ 周りの人と 比較したってしょうがない』
乃木坂46の35作目のシングル『チャンスは平等』である。中村健人は昨シーズンから、自身の登場曲として用いている。
字も上手ならば、声も大きい。どこまでも実直な男は、やはり楽曲についても説明責任を裏切らない。
「慶應大で、(元メンバーの)山崎怜奈さんと同じクラスだったことがきっかけです。もともとアイドルグループに詳しかったわけではありませんが、それをきっかけに少し詳しくなりました。野球部にも乃木坂46のファンがいて、話が盛り上がりました。ライブにも行くようになりました。本当に応援されているファンの方々にはおこがましいですが、好んで楽曲も聞かせてもらっています」 2024年、中村は新たな登場曲を考えていた。決して順風満帆ではない。そんな勝負師が、何かで心機一転を図ろうとすることに不思議はない。
「テンションの上がる曲、そこを考えていました。打席に向かう自分を後押しするような音楽です」 そんな視点で、乃木坂46の『チャンスは平等』を聴いていた。すると、感性豊かな彼の胸に、歌詞が刺さった。
「『チャンスは平等』って、優しくもありながら、厳しさもあるフレーズだと思いました。平等なので、そのチャンスは自分がつかまないといけません。チャンスをつかむのも自分なら、手放してしまうのも自分です。チャンスが回ってこないのでなく、自分がチャンスをものにできていないのです。これまで、リズムを中心に聞いていましたが、この歌詞から励まされ、覚悟も決まりました」 実現可能な「10割」
そもそも言葉のある選手である。しかし、それだけではないだろう。思うようにはいかないプロ野球人生が、さらに心を繊細にさせたようだ。
スポーツ万能で誰にも愛される少年だった。名古屋市立久方中学校時代は、野球とバスケットボールの二刀流だった。平日は校内のバスケ部、週末は愛知知多ボーイズで野球に汗を流した。バスケ部の顧問・大矢貴彦は、当時を振り返る。
「パッと見た瞬間に、野球で大成すると思いました。身長も180cmくらいあって、スポーツも何でもやれちゃう。頭も良くて、学業成績も抜群でした。バスケも、ポジションにとらわれず好きに動いて得点を挙げていました。オールラウンドプレーヤーで、コートで目立つ選手でした」
豊かな才能がありながら、人柄はどこまでも実直だった。
「僕は平日しか(バスケの)部活に参加できないので、やめたほうが良いでしょうか?」 そんなことを、顧問の大矢に打ち明けたほどだった。
しかし、逆だった。あきらめる必要などない。週末は野球があるため、バスケの実戦経験が不足する。大矢は、平日の夜に彼を他校に連れていき、実戦経験を補わせた。
最終的には・・・
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