成功と失敗が入り交じったシーズンを経て迎える3年目。春季キャンプでは山積する課題と正面から向き合う日々を送った。済美高時代に“怪物”と騒がれた20歳の右腕が今、大きく羽ばたこうとしている。 取材・構成=富田庸、写真=上野弘明(インタビュー)、BBM 5回のカベを乗り越えて
沖縄で過ごした3度目の春季キャンプ。スケールアップの予感を漂わせている。2月22日、
巨人との練習試合[那覇]で4回を無安打無失点。
梨田昌孝監督は「胸板も厚くなっているが、野手の信頼も厚くなる」と、好投を見せた右腕に目を細めた。
「オフの間から取り組んできた体作りを継続すること。それもしっかりできているので、しっかりと投球フォームにマッチさせるということを、この春季キャンプでは意識してきました。体重は1、2キロ増えた程度ですけど、体脂肪率も減って体つきは変わってきていると思います。このトレーニングの成果をもっと実戦で出してきたいですね」
高校時代の故障もあり、1年目は一軍で1試合の登板に終わったが、2年目は主に先発として15試合に登板。成績こそ3勝5敗と負けが先行したが、その数字以上に貴重な経験を積んできた。
「昨季は先発を数多く経験させていただいたと思いますし、その中で相手チームのエースと投げ合う機会もありました。それらの経験を今季に生かしていきたいという思いと、勝ち切れなかった試合をなくしていき、今季は負けを勝ちに変えられるようなピッチングがしたいです」
昨季は5試合、
オリックス戦に登板した。そのうち4試合が相手エース・
金子千尋との投げ合い。球界屈指の好投手を向こうに回し、なかなか勝ち星を挙げることができなかったが、3度目の対決となった8月19日に初めて投げ勝った(安樂は7回無失点、金子は完投負け)。これがうれしいシーズン初勝利でもあった。金子との最終成績は1勝2敗。その勝敗以上に収穫があったという。
「相手のピッチャーと投げ合っているというより、打者と勝負している意識が強いので、エースと投げ合っているからといって、そこまで気にすることはありません。一つあるとすれば、先に点を与えてはいけないということ。1点を与えても、何とか2点目を防ぐ。相手は1点取れば勢いづくでしょうし、逆にこちらがゼロで粘れば、相手にも焦りも出てくるでしょうから」
先発投手なら避けて通れないのが、いわゆる“5回のカベ”。昨季序盤はそこに苦しみながらも、先発に戻った夏場以降に白星を重ねた。その理由はどこにあったのか。
「これはシーズン中、だいぶ遅かったんですけど、気づいたことがあったんです。僕の場合、ある程度いいピッチングができていても、6回、7回につかまるケースが多かった。それも、ビジターではなくホーム。それでもシーズン終盤、
西武プリンスドームで8回投げられて(9月18日の西武戦、1失点勝利)、札幌ドームで7回投げられたんですよ(9月25日の
日本ハム戦、無失点で勝敗つかず)。そのときに考えたのが、5回と6回の間にグラウンド整備があるということ。自分では無意識でも、一度、スイッチが切れてしまうんです。ただ、ビジターならば攻撃が先ですから、ほかの回と同じ感覚で試合に入れる。それをホームでの最終登板(10月1日)でよく考え、5回のキャッチボールを長めに取ったんです。そうしたら8回まで投げることができました(1失点勝利)」
シーズンで芽生えた課題と向き合い、同じシーズン中に克服。そして9月、2つの勝ち星を重ね、いい流れでシーズンを終えることができた。プロ2年目、確かな足跡を残したと言えるだろう。
「昨季は2年目でしたし、チームの勝利はもちろんのこと、自分自身の勝ち星について意識していた部分も大きかった。それによる変な欲が悪いほうに働いたんですけど、今はそれもありません。僕に勝ちがつかなくても、チームに勝ちがつけば、それは自分にとってもプラスになる。今は、その中で自分の白星がついてきてくれればというくらいの感覚を持っています。6回、7回のカベというのは、8回、9回よりもしんどいような気がするけど、そこで気持ちを高めて、全力で投げられました。それが終盤のいい結果につながったのかなと思っています」
“エンジン”を生かす
昨年2月、本誌の企画で先輩左腕・
松井裕樹と球場脇のプルペンで
対談を行った。その際に安樂の口から出たコメントが「僕が先発したら、何とか裕樹さんに勝利のバ
トンを渡せるようにしたい」。それが実現したのは9月18日の西武戦だった(試合の詳細は下記)。
「本当は、シーズン前半や中盤の、まだ順位が確定していない時期に裕樹さんに直接、バトンパスできるようにしないといけないですよね(苦笑)。1シーズンの大半を一軍で過ごして思ったことは、ピッチャー陣はみんなで一つなんだなということ。僕が先発として投げた試合でも、途中で中継ぎの方の力を借りて、最後は抑えの方の力を借りて、一つの勝利になるわけです。そのために、一つのアウトでも、1球でも多く投げて、中継ぎの方にバトンパスしたいという気持ちが芽生えました」
春季キャンプからブルペン、実戦で力のある球を投げ込み、首脳陣の評価は日に日に高まっている。それでも安樂には満足感がまだない。現時点で抱える自身の課題とは。

先発ローテ入りのボーダーラインにいることを強く自覚している。ブルペンでの投球にも力がこもる
「課題を上げればキリがないけれど、やはり一番はストレートだと思います。僕が160キロ、165キロを投げられるようになったとしても、課題はストレートです。ストレートを良くしていくためには、フォームの修正であったり、力強い球を生み出す下半身、そして連動させる上半身の強さ。それができたらさらに、球の質だったりコントロールと、細かく追求していくことになります」
高校2年の夏、愛媛大会準決勝で自己最速を更新する157キロをマーク。同春の甲子園では772球を投げ、登板過多による故障の影響はプロに入ってからも尾を引くことになった。それでも、この右腕の最大の魅力が、威力のあるストレートであることに変わりはない。
「157キロを出した高校2年時の状態でプロのマウンドに上がったとしても、僕は打たれると思います。今のように質を追い求める中で、同じ数字が出てくれるなら、それに越したことはないんですけど。とにかく質のいいボール、生きたボールを目指して取り組んでいきたいですね。トレーニングやランニングによって大きくなった“エンジン”を、生かすも殺すも“ドライバー”のテクニックですから。技術もそうですし、自分の体をうまく操れるかどうか。それを今キャンプでしっかりやってきたつもりです」
梨田監督は実戦登板した安樂のピッチングについて、「四球で崩れなくなった」と評する。もちろん本人も、その強みを生かしてくつもりだ。
「すごく期待してもらっているのは分かっていますし、僕自身もそれに応えたいという思いが強いんです。去年も6回、7回、8回につかまることがあっても梨田さん、与田さん(
与田剛投手コーチ)、森山さん(
森山良二投手コーチ)に使ってもらいましたし、その恩返しは今季の白星だと思います。応援してくれる方が1人でもいるなら、その人のためにもしっかり投げたい。梨田監督の言葉は素直にうれしいですし、そこが僕の一つの強みだと思います。今後はストライクゾーンでファウルを取れる、ストライクゾーンの中で空振りを取れるストレートをもっともっと追い求めていきたいです」
チーム内はエース・
則本昂大がおり、
岸孝之、
小山雄輝といった実績ある投手も新たに加わった。さらなる成長を模索する安樂にとっては、これ以上ない環境である。
「ノリさん(則本)には食事に連れて行っていただいたり、普段から他愛もない話もしますし、真剣な野球の話もしてくれますから、すごく楽しいですね。今年は岸さんという素晴らしい投手が入られて、チーム内でも競争意識が高まりました。去年はノリさんというエースがいて、ほかの先発5枠を争っていたわけですけど、今年はノリさん、岸さん以外の4枠。より一層、切磋琢磨できる状況になっていると思います」

則本[左]や小山[中央]といった実績のある先輩右腕の存在は心強い。その背中を追いかけ、一歩ずつ成長している
昨年の対談時に口にした目標は「開幕ローテに滑り込むこと」。それは実現しなかったが、先発投手としてさまざまなことが学べたのも事実。そして今年、口にした目標は、先発ローテを守り、「10勝すること」。具体的な数字が出なかった昨年から、一歩踏み出そうとしている。
「去年、この場所で“開幕ローテーション入り”を目標に掲げ、それを果たすことができなかったので、今年こそはそれを果たし、1年間、先発ローテを守りたい。今年は3年目ですし、勝負の年と位置づけていまから、2ケタ勝ちたいという気持ちはすごく強いです。ノリさん、岸さん、ほかの投手の方も必ず2ケタ勝つと思うので、その中で僕も出遅れないように。去年とは違った思いで、違ったピッチングを見せられるように頑張ります。そしてまた来年、この場所で取材していただけるのであれば、今僕が掲げた目標を達成し、さらに大きな目標を口にできるような選手になっていたいですね」

まだプロ3年目の20歳だが、現状を見つめる厳しい目は確かだ
■2017安樂智大の“挑戦” (1)先発ローテ定着
(2)10勝
(3)真っすぐの“質”向上
PLAY BACK 2016 先輩との“必勝リレー”
前年の本誌登場時に先輩・松井裕樹と約束したのが2人による“必勝リレー”。それが実現したのはシーズン終盤の9月18日の西武戦[西武プリンス]だった。この日は打線が20安打10得点と若き右腕を大量援護した。先発の安樂は油断することなく力のある速球を低めに集め続ける。自己最長イニングを更新した8回に1点を失ったものの、後続を抑える。そして9回を締めた松井裕からウイニングボールが手渡され、2人は歓喜の抱擁。先発投手としての可能性を感じさせる一戦となった。

2016年の成績15試合登板3勝5敗0S0H、防御率3.42
PROFILE あんらく・ともひろ●1996年11月4日生まれ。愛媛県出身。186cm87kg。右投左打。済美高から15年ドラフト1位で楽天入団。1年目の終盤に公式戦初登板初先発初勝利。16年はシーズン途中から先発の役割を任され、一時は中継ぎに配置転換となった。二軍調整を経て8月に先発復帰すると、8月20日のオリックス戦[京セラドーム]で16年初勝利。9月にも2勝をマークした。
ユーザープレゼント
安樂智大選手の直筆サイン入りボール
※締め切りは2017年3月20日(月)、当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。※ご応募いただいた個人情報は、懸賞の目的以外での利用はいたしません。