目指すべき方向は明確だ。武器はチームで1、2を争うスピード。「足で生きてきた」という言葉にすべてが集約されている。ファームでは、育成ルーキーながら連日のようにスタメンに名を連ね、少しずつではあるが、着実に日々成長している。 取材・構成=牧野正 写真=川口洋邦、BBM 12球団の誰よりも大きな背番号を着けている。育成ドラフト3位のルーキーは小さな体に213番を背負ってファームで奮闘中だ。埼玉県で生まれ育ち、地元の駿河台大卒業後は独立リーグの埼玉武蔵ヒートベアーズで腕を磨いた。その足と野球センスに目をつけた中日への入団が決まり、現在は虎視眈々(たんたん)と一軍へのチャンスをうかがっている。 ――開幕から2カ月以上が過ぎましたが、毎日のようにスタメンで出場していますね。だいぶ慣れてきましたか。
樋口 正直、こんなに試合に出させてもらえるとは思っていませんでした。慣れたというより、毎日が勉強です。
――すぐに試合に出られるとは思っていなかったのですか。
樋口 試合の終盤で代走、守備固めからかなと思っていました。普通にスタメンで使っていただけるとは思っていなくて、ケガ人が多いという理由もあるかもしれませんが、ちょっと意外でした。
――疲れは感じていますか。体力は課題の一つだと思いますが。
樋口 疲れていますけど、体というよりはメンタルの疲れですね。結果が出なかったり、ミスをしたりすると、やっぱりどうしても……(落ち込む)。育成1年目と言っても、今年で25歳なので、ある意味、崖っぷちじゃないですか。しっかり結果を出していかないといけない立場ですから。でも毎日のように試合があるので落ち込んでいる暇はなく、気持ちの切り替えが大切。そこが疲れるというか、しんどい部分ですよね。どうしても調子が悪いときはありますので。
――プロのレベルの高さを実感していますか。
樋口 独立リーグのときに対戦していますから、ある程度のレベルは分かっていました。ただ、やっぱり実際にプロの世界に入って、いろいろと違いを感じています。技術的なこともそうですが、考え方ですよね。打撃も守備も考えるべきことが本当に多い。今までやってきた野球と全然違う野球をしている感じです。守備位置ひとつでも投手のタイプや球種、打者のタイプや傾向、そのときの状況も考えながら守らないといけない。本当に頭を使って考えないとダメなんだなと。
――ファームでは二塁を守り、二番と九番を打つことが多いですね。
樋口 自分は大きいの(長打)を打つタイプではないですし、単打、転がしての内野安打、犠打などを求められていますから。でもプロに入るまでそういうことはしてこなかったので、今は毎日必死でやっています。また一から打撃をやり直しているような感じです。
――その中で特に注意していることは何ですか。
樋口 最初のプレーというか、その試合の一発目を大事にしています。打席だったら第1打席、守備だったら最初の打球処理。第1打席でバントのサインが出たら1球目で決める。やっぱり1球目で決めるのと、2球目や3球目で決めるのとでは違うと思っていますから。最初のプレーがしっかりできれば、その日は集中できるというか、うまくいくので。
――足が最大の武器だと思いますが、そのわりに盗塁数は少ないですね。もっとアピールしたいのでは?
樋口 そうですね。走るタイミングがなかなかないですし、自分勝手に走るわけにもいかない。そういう中でもアピールしていかないといけないのですが、ちょっと疲れやケガもあって、自分の良さをアピールできていないというか、まだ出し切れていないとは感じています。本当はもっと走りたいですし、そこが一軍への近道だとも思っています。
――打撃のほうはどうですか。
樋口 すごく苦労しています。とにかくゴロを打てと言われていますし、安打を打つこともそうですが、何をやってくるか分からない、投手に嫌だなと思わせる打者になることを目指しています。簡単にアウトにはならない打者ですね。バットを短く持って近いポイントで打つように意識しています。フライを打ち上げたらペナルティー(笑)。苦労はしていますけど、やるべきことは明確なので、何とかモノにできるようにしたいと思います。

打席ではシンプルかつ冷静に。逆方向へゴロを打つことを心掛けている
――目指すべきタイプの選手は?
樋口 周東選手です(
周東佑京、
ソフトバンク)。足でアピールして、そこからレギュラーをつかみましたから、自分みたいなタイプが目指すべき選手だなと。
技よりも心と体が重要
――高校、大学と無名の学校でしたが、プロへの思いが芽生えたのは、どの時期でしたか。
樋口 大学に入学するときです。もともと野球は高校でやめようと思っていました。でも大学から声が掛かり、親とも相談したら「プロを目指すなら」と続けることになりました。大学の監督が元プロの方で、プロに行けるように育てるとも言ってくれたので。どうせやるならプロを目指してやってやろうと。
――昨秋のドラフト会議で中日から指名があったときの気持ちは?
樋口 うれしかったですね。3日ぐらいは現実味がなかったですけど、プロを目指してやってきましたし、やっとスタートラインに立てたんだなと。
――あこがれていたのは
鳥谷敬選手(元
阪神ほか)だったそうですね。
樋口 中学のときは遊撃を守っていましたし、同じ右投げ左打ちというのも大きかったですね。それに毎日のように当たり前に試合に出て、すごく淡々とプレーしてカッコよかった。打ち方からシルエットから、全部好きでした。
――まずは育成から支配下選手になることが目標だと思いますが、そのためには何が必要だと思いますか。
樋口 小技ができて、塁に出たらいつでも盗塁を狙えて、二塁にいたらワンヒットで必ずホームにかえってこれて、守備固めからしっかり守って……そういったことを一つずつ潰(つぶ)していくことですね。かなり多いですけど。
――支配下への道は見えていますか。
樋口 支配下選手になることではなく、一軍に上がれる選手になることを目指しています。これは豊さん(
中村豊外野守備走塁コーチ)からもよく言われています。たとえ支配下になれたとしてもファームにいたら同じこと。プロは一軍にいてナンボなので。
――12球団で一番大きな背番号を早く変えたいですね。
樋口 ある意味、この番号も気に入っているんですけどね。一番下からはい上がっていくという感じがして。ずっとそういう野球人生でしたから。
――最後に「心技体」で順位をつけるとしたら、どの順ですか。
樋口 自分は「体心技」か「心体技」ですね。技はやればやるほどうまくなれるじゃないですか。でも体と心は一日一日で全然違う。体と心がしっかりしていなければつらいですし、体と心が充実していれば技も練習をしっかりすれば身につくはずだと思いますから。
深堀りQ&A
Q.将来の目標を力強く宣言して! Q.野球をやっていなければ、どんなスポーツをしていた? A.スポーツはたぶんやっていないです。小さいころから絵を描くことが好きで、図工や美術は大得意でした。模写、風景画ですね。小中学校ではよく賞をいただいていたので、野球をやっていなければ美術系の高校に行っていたと思います。でも野球をあきらめきれなかった…、という感じで今があります。
Q.自分の性格をひと言で表すと? A.僕自身はそうは思っていないんですけど、みんなからはクソ真面目と言われています。突き詰めるタイプで、自分の世界に入って練習しているので、そういうところだと思います。でもクソ真面目なのは練習のときだけで、試合では冷静ですよ。試合でも自分の世界に入っていることはありませんので(笑)。
Q.名前の由来を教えてください! A.正修(せいしゅう)って確かに珍しいですよね。あまりいないと思います。親に聞いたことはないんですけど「正しく修める」ということですかね(笑)。でも祖父、父、弟とウチの家系の男はすべて「正」がついています。ちなみに弟は正導(まさみち)です。正修という名前は気に入っていますが、親からは「せいしゅう」は言いづらいからと「しゅう」と呼ばれています。
Q.休日は何をして過ごしているの? A.部屋でアニメを見ていることが多いです。姉の影響でアニメが好きなんですよ。王道だと『鬼滅の刃』とか、あと『推しの子』も好きです。一人で過ごす時間も好きなので、たまに寮の近くにある「コメダ珈琲店」に行きます。サウナも好きで、昔は良くぽかぽか温泉とか行ってました。何しろリ
ラックスできるのが一番です。
【2023年ウエスタン打撃成績】(6月4日現在) 48試合、打率.208、30安打、0本塁打、7打点、1盗塁
PROFILE ひぐち・せいしゅう●1998年11月17日生まれ177cm75kg/右投左打/埼玉県出身北本高-駿河台大-BCL/埼玉-中日23育[3]。