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<TEAM STAFF CLOSE UP>ピッチングコーディネーター・釜田佳直(楽天)「意見が割れてしまったときに背中を押せるような視点を」

 

試合を戦う上でデータ収集や分析は必要不可欠。だが膨大な情報の中から有益な情報を明確化し、試合に生かすのは簡単なことではない。だからこそ新設されたピッチングコーディネーターは、わずか2年の間に大きな進化を遂げ、ベンチに欠かせぬ存在となったのだ。
取材・構成=阿部ちはる 写真=井田新輔、BBM

ピッチングコーディネーター・釜田佳直


高まる信頼で仕事が激変


 楽天のチームスタッフにはアナリストグループという、スコアラーと連携しながら情報収集やデータ分析を行う部門がある。選手や首脳陣にフィードバックすることでプレーや戦術に生かしてもらうのだ。そこに新設されたのがピッチングコーディネーター。2023年からその役職名がつき、最初の担当者となったのが、楽天の元投手・釜田佳直氏だ。「新しいものをつくり上げていこうというところからのスタートでした」。その仕事ぶりから仕事内容は年々変化し、今では「ピッチングコーディネーターという名前には当てはまらない仕事をしていますね」と苦笑する。だがそれは、釜田氏の仕事の重要性をチームが理解し、その力を求めたからこそ。今では勝利に欠かせない存在となっている。

 12年にドラフト2位で楽天に入団し22年に引退を表明。23年からはスコアラーとして球団に残った。当時の仕事は対戦相手の投手を分析し、野手に向けた資料づくり。しかし、24年に球団から伝えられた「ピッチングコーディネーター」は自チームの投手のデータを収集し分析することで投手の育成に携わることだった。試合に登板した選手が試合後に振り返るためのコメント入りの資料を作成すること、登板時やブルペンで投球練習したときのトラックマンなどを活用した情報を数値化してフィードバックすることが主な仕事だ。一軍が本拠地で試合をする際には楽天モバイルパークに行き、遠征に出ている間は二軍で若手投手のデータを収集する。当初は投手を総合的に見る立場だった。

 しかし交流戦に入る少し前、一軍から「ベンチに入ってほしい」と声が掛かった。チームから求められたのは投手交代に生かすための情報提供だ。

「対戦相手の打順の並びから、誰をマウンドに送るのが最適か。投手陣の特徴や相手打者の得意不得意、相手打線が直近の試合でどんな対応をしていたかなど、あらゆるデータを整理して投手交代の参考になる情報を監督やコーチに伝えます」

 登板過多にならないような管理や選手の心身の状態を把握した上で、第三者の視点で最終判断の参考となる意見を伝えることが求められた。そのためには自チームの状況把握に加え、相手チームの打者や攻撃の特徴を知る必要がある。そのために毎日、多くの映像を見てあらゆる角度から分析し監督、コーチと話し合う。もちろん最初から意見を伝えることができたわけではない。「どんどん言ってもらったほうがやりやすい」と言われたことで自身のやるべきことに覚悟を決めた。「監督とコーチで意見が割れてしまうこともあると思うんです。そのときに最後、背中を押せるような視点が欲しいという状況もあるのかなと」

 情報が有益であることに加え、信頼を置ける釜田氏の意見が、ベンチの迷いを打ち消す。そうして就任1年目ながら重要な役割を任されるようになっていった。

 ピッチングコーディネーター2年目の今季は開幕からベンチに入っている。だがその役割はまた少し変化した。「投手交代に限らず、キャッチャーも踏まえた攻め方や配球に対する意見交換をメインにやってほしい」と伝えられたのだ。

 先発投手がどういったプランニングをしてその日の試合に臨むかを考え、試合が始まれば相手打者の印象や投げたときの感覚、投手の状態を確認しながらプランを再構築していく。バッテリーの会話に加わり意見交換をすることも増え、その日のチームの“作戦”に大きく関わるようになっていった。

試合中はベンチでデータ収集を行い、選手や首脳陣と意見交換。左から川名慎一外野守備走塁コーチ、釜田氏、田中雅彦バッテリーコーチ、三木肇監督


勝利の一助に


 試合日は午前中にその日のゲームプランを発信し、試合後にはフィードバック用のデータ分析と資料づくりなど仕事は多岐にわたるのだが、ゲームプランは自身が先発投手を務めていた経験から、ミーティングの前に送るようにしている。

「僕が現役のとき、ミーティングでその日のプランを聞いてもすぐに自分の意見を伝えるのは難しかったんです。ミーティングの前に伝えることで選手が考える時間もできますし、意見も出しやすくなる。選手には迷いなくやってほしいので」

 元選手のメリットはほかにもある。

「データを扱える人はたくさんいますし、それは選手の経験がなくてもできます。でもそれだと数字を基にした上での話しかできず、『数字だけで伝えるには限界がある』とスタッフの方も悩んでいたそうです。数字も分かって選手の感覚も分かる人が伝えたほうが、伝わりやすいと言っていただいたこともありました」

 その存在はコーチと選手だけではなくデータ班と選手のこともつないでいる。現役で戦っていた仲間も多く、厚い信頼がそこにはある。

「寝るか野球を見るか。そんな感じですね」。シーズン中は毎日、映像とにらめっこだ。より精度の高い情報を提供するため、その日対戦するチームは前回の対戦だけではなく、過去の他球団との試合も分析し、ディフェンスのプランニングに役立てる。さらに相手投手の前回登板や自チームの投手の映像もチェック。今年からアシスタントが加わり2人体制となったことで昨年ほどの忙しさではなくなったそうだが、それでも頭の中は野球のことでいっぱいだ。今日投げる投手のことはもちろん、翌日登板する投手、昨日投げた投手の次回登板……と同時並行で何人分もの分析を進めているという。

 だがどれほど情報を駆使して分析しても目の前で起こることがすべて。実際にグラウンドで感じたことを共有し、そこから作戦を練り直すことも多い。「絶対にこのとおりにやらなきゃいけないとは思わないでほしい」と伝え、試合中もベンチで対話を重ねる。

 作戦面での提案が増えたことで、捕手と話すことも増えた。投手出身だからこその難しさを感じることもあるが、それ以上に伝え方には気を配っている。

「話し方や提案の仕方も、一人ひとり変えていく必要があると思っています。今は一軍に3人の捕手が帯同していますが、タイプも性格も全然違う。どのような話し方や提案をすれば伝えたいことがその選手に一番伝わるのか、そこも考えながらやっていますね」

 どれほど有意義なデータを作成しても、それが伝わらなければ意味がない。その細やかな気配りがデータ班の仕事をより重要なものへと昇華させている。

 1つの勝利に向けてあらゆる道筋を立てていくが、そこに答えはない。情報収集と分析、経験値を頼りにプランを立てる。難しいからこそ、やりがいもひとしおだ。

「こういう試合展開に持っていきたいと思って立てたプランがしっかりはまったときはうれしいですね。そして勝つ喜びも負けた悔しさも、昨年や一昨年に比べてより大きくなっています。重要なポジションを任されている責任感もこの3年間で一番強いですね」

 技術の進歩とともにデータはより複雑化し、量も膨大になる。それを分かりやすく伝えていくことで選手は迷いなく試合に向かうことができるのだ。また、より多くの情報から導き出す試合プランだからこそ精密さは増し、勝利の一端を担うことにもつながっていく。釜田氏の仕事はいまやチームには不可欠。やるべき仕事量と責任感は増すばかりだが、「誰もができる経験ではない」と毎日の刺激を原動力に変え、勝利へのプランを生み出している。

PROFILE
かまた・よしなお●1993年10月26日生まれ。石川県出身。金沢高を経て2012年ドラフト2位で楽天に入団。1年目に7勝を挙げるも故障にも悩まされ18年からはリリーフに転向した。22年限りで現役を引退し、スコアラーに。23年からはピッチングコーディネーターとしてデータ分析、フィードバック用の資料作成、ゲームプランの考案などを行っている。
舞台裏の仕事人

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野球界には欠かせない裏方さんを紹介する連載。

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