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野球文化の創り手たち

<Baseball Specialists>友鉄工業株式会社・兒玉誠「ものづくりを通して、貢献できるのはありがたい」

 

海を渡って活躍する日本選手を称えるとともに、日本のものづくりの粋をPRしようと、MLBが展開したプロジェクト。色鮮やかなデザインマンホールカバー(蓋)に、心躍る物語が宿る。手掛けたのは『カープ坊やマンホール』でもおなじみの、広島県の鋳造会社。直径630ミリ、重さ43キロに詰まった、確かな技術と情熱に迫る。
取材・文=相原礼以奈

友鉄工業株式会社・兒玉誠


MLBからの依頼


 メジャー・リーグで活躍する日本選手たちを称えるプロジェクトを、日本のものづくりが支えた。今年6月、MLBはメジャー・リーグの現役日本選手らの姿があしらわれたマンホールカバーを、選手の出身地やゆかりの地に設置した。デザインされたのは、大谷翔平(ドジャース/設置場所=岩手県奥州市)、鈴木誠也(カブス/同=東京都荒川区)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス/同=埼玉県東松山市)ら12選手。それぞれのマンホールカバーには、各選手の個性や活躍に至るまでの道のりがアーティストの手によって鮮やかに表現され、『ベースボールは唯一無二。』の言葉が躍る(詳細はMLB Japan公式サイト参照)。

 製造を手掛けたのは、広島県広島市の鋳造業、友鉄工業株式会社(友廣和照社長)だ。1959年に広島県安佐郡可部町(現広島市安佐北区亀山)で創業した同社は、当時からマンホールカバーなど多様な鉄製品を製造。現在は自動車用プレス金型を主とし、マンホールカバーの製造は生産全体の約2割を占める。顧客は広島県内をはじめとした中国地方が中心。これまで広島東洋カープやサッカーJ1・サンフレッチェ広島とのコラボデザインなど、多彩なマンホールを製造し、市民やファンに親しまれている。

 今回のプロジェクトについて、MLB側の担当者から最初の電話連絡を受けたのは、昨年9月。同社がホームページで公開している製造工程や製品事例が担当者の目に留まり、製造を委託する候補社の一つとして声が掛かったという。

 同社ブランディング室室長の兒玉誠さんは、「最初はMLBって言われても、パッと頭に浮かばないんですよ。メジャー・リーグって言われて分かったけど。それに、アメリカの組織じゃないですか。信じられない感じでした(笑)」と、当初の戸惑いを回顧する。

 正真正銘、本当の依頼だと分かっても、実現性には疑問が残った。「今回、現役で活躍する選手のデザインでしたが、人が描かれているマンホールって少ないんですよ。土方歳三とかはあるんですが。やっぱり踏まれるものなので、人物とか神社の絵柄は反対されることも多い。だから今回の話も、できたらすごい企画だから『いいね』とは言ったんですけど、そのときに一応そういうことを伝えて、『チームロゴだったらいけるかもね』という話はしました」。

 設置場所は全国各地、しかも広島県を含まない。同社への依頼としては異例づくしだ。「うちのシェアは中国地方がメイン。最初、(元広島の)鈴木誠也選手か! と思ったけど、広島に設置されるのではないと。それもあって、最終的にウチが頼まれることはないとは思いながら。でも、話題としては最高の話題ですし、僕は自分で製造した上で広報をやっているので、ウチの技術も踏まえて『実現するならぜひやりたい』とは言っていました。社長も『なんとかなるよ』と」

 納期や品質面などの話し合いを経て、一貫して見せていたやる気も買われて、製造担当に正式決定した。動き出せば、それは極秘プロジェクト。約100人の社員のうち完成品を見たのは、製造に携わったわずか10人ほどだった。

ものづくりの可能性


 マンホールカバーの製造は、MLB側から受け取ったデザイン(絵)のデータから、鋳造に必要な木型を作るためのデータを作成することから始まった。「絵を変換していく作業ですけど、ほぼ最初から作る感じなので時間がかかる。そして、その絵のとおりに作れるか。黒い線で囲まれたへこみの部分は、小さ過ぎると再現が難しいので、それを全部チェックしながらデータを作るんです」。

 木型に砂を充填し固めて砂型を作り、溶かした鉄を流し込む。「この砂型が意外ともろくて、柄が細か過ぎると折れてしまうので、柄の小ささは肝になる。でも、せっかくのアーティストさんのデザインなので、なるべく再現したい。そこは大変でした」。最も複雑だったのは、11の球種の握りが千手観音のように表現されたダルビッシュ有(パドレス/設置場所=大阪府羽曳野市)のデザイン。「これまで作ったものとは比較にならないです。ダルビッシュは過去最強でした。一番大変だったけど、一番お気に入りです」。

 繊細な絵柄を再現するために、砂型づくりの段階でも試行錯誤を要した。細か過ぎて砂型の一部が壊れてしまうため、一つ目のデザインのときに20回ほど作り直して、やり方を見極めていった。「砂で鋳型を作るので砂の種類を考えてみたり、作業方法を考えてみたり……。というか、考えてもしょうがないと、いろいろ試しましたね」。求められる繊細さを表現するため、通常15分ほどで終わる作業も、3日かけて試作を重ねた。

 鉄を流し込む段階では、2023年に地元企業のオタフクソースと連携して製造した『お好み焼きシリーズ』14枚の経験が生きた。鉄は約1500度とされるが、流れる間も温度は下がるため、最適な温度を探って10度単位で調整が必要になる。麺やトッピングの細やかな広島名物お好み焼きの絵柄を表現するために試行錯誤したことが生かされ、今回は不具合がなかったという。

 特急作業により、今年5月末に12枚すべてが完成。完成品は、6月に岩手県から順次設置された。各マンホールカバーには、スマートフォンで読み込むと短いムービーが楽しめるAR機能も搭載され、同社としても新たな気付きになった。

 全国各地で立ち会った設置作業では、現地の盛り上がりにも触れた。SNSで設置を告知すると、すぐに多くの人が訪れた。「地元の方からすると、地元から出たヒーローですよね。だから、すごく関心を持ってくれて。岡山(備前市、山本由伸)のときは、近所の方も来ていましたが、四国から来たという方もいた。マンホールを設置したと言っても、そんなに人が来ることって、今までなかったんですよね。地元に愛されている人たちのマンホールを作るのは、『こんなに話題性あるんじゃ』と、驚きました」。

5月下旬に完成した12選手のマンホールカバー。現在は各選手の出身地などに設置されている[写真=友鉄工業株式会社提供]


 MLBが公開したPR動画で、兒玉さんは「マンホールが、新しい世界の生まれるキャンバスになるのかな」と語っている。マンホールのファンを中心に注目されることはあるが、今回は国内外の野球ファン、地元住民も関心を寄せた。「今まで僕らが関わっていない方たちが注目してくれたのがうれしいですね。マンホールに興味を持つ人が増えたり、従来のマンホールファンが野球に興味を持ったりしてくれたらありがたい。子どもたちも見て、『俺もマンホールになる』みたいに目指してくれたら」。

 地元で長年マンホールカバーの製造を続け、8年ほど前からはホームページ整備やSNS活用など、広報に力を入れてきた。兒玉さんは、その積み重ねが今回の大きな仕事を受けることにつながったと実感する。「ものづくりを通して、いろいろなものに貢献できるのはありがたいです。各スポーツ、人物ものなど『そういうのもいいんだ』と発見もあった。マンホールでこんなに盛り上がりが見せられるなら、いろいろなところを手伝えればいいなと思います」と展望する。

 同社の友廣社長がよく口にするのは、「足元からものづくりの世界を盛り上げていく」という言葉。つくるのは喜びと感動。技術を極めて挑む精神が、MLB日本選手たちの挑戦の物語と響き合う。

PROFILE
こだま・まこと●1975年7月19日生まれ。広島県出身。98年、広島電機大を卒業後、友鉄工業株式会社に入社。設備担当、マンホール鋳造担当などを経て、2017年ころから広報を兼任。19年からブランディング室室長。
舞台裏の仕事人

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野球界には欠かせない裏方さんを紹介する連載。

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