先日(現地時間5月28日)、レンジャーズの
ダルビッシュ有投手が約1年9カ月ぶりに復帰登板を果たしましたね。仕事の関係上、ライブで試合を見ることはできませんでしたが、すごい投球内容だったとか。さすがとしか言いようがありません。僕は、今までの日本のピッチャーの中で彼が最高の投手だと思っているんです。
マサヒロ(
田中将大=
ヤンキース)もすごい投手ですが、僕が
西武の打撃コーチ時代には、彼の投球には一つの傾向がありました。それは「困ったときはスライダー」というもの。打者有利のカウントでは、必ずスライダーだった。だからミーティングのときは、それを軸にいろいろと指示ができました。
一方、ダルビッシュ。西武戦に登板するときのバッター・ミーティングはひと言。
「自分の狙ったボールだけを打て!1球勝負だ」という超消極的戦術だったんです。真っすぐも超一流なら、持っている変化球も超一流。それだけでも打てないんですが、マサヒロのような「困ったとき」がないんです。こっちがまったく「困った」状態でしたよ(笑)。

西武打撃コーチ時代の選手へのダルビッシュ対策は超消極的打法でした。それくらいすごい投手でしたね/写真= Getty Images
それと一番大きいのは、彼がめちゃめちゃ野球の知識を持っていていること。「何となく」という投球が1球もなかったんです。いい投手でもたまにポカがあって打てることはあるんですが、ダルビッシュの場合は、前回対戦をよく覚えていて、それを軸に1球1球意味のあるボールを投げ込んでくる。だから、的を絞りにくくてしかたない。ここまでやられたらお手上げです。
そして、打撃コーチの僕がやることは……バッテリー・ミーティングに出席することでした。そこでまず、僕が発言をするんです。どういう発言?「皆さん聞いていください。ダルビッシュをタイガー・ウッズにたとえます。西武投手陣は、マスターズの18番ホール。優勝へ向けて1打差で首位。右ドッグレッグで目の前には大きなバンカー。右には大きな林。そこで投手陣がダルビッシュに1点を与えたら、右の林がなくなる。2点目はバンカーがなくなる。3点目はただ平らなコースになって、ウッズ(ダルビッシュ)は簡単に勝てるでしょう!?お願いですから点を与えないでください!!」と(笑)。当時の投手コーチ・小野(和義)さんは真剣に「頑張ります」とは言っていました。
そうは言っても、試合になると、ダルビッシュ相手に投げ合うのは厳しい。実際に西武が3点取られたら?この試合を引きずるといけないので「明日に向かって打とう!」とベンチで選手たちを鼓舞?していました(笑)。それくらいすごい投手でしたよ。あとにも先にもそういう投手は見当たりません。
そして、今回トミー・ジョン手術を克服して帰ってきました。一説によると、リハビリがうまくできた選手は、以前にも増していい投手になると聞いています。今回の投球で、最速158キロを出したそうですね。もっとすごい投手になって帰ってきました。どこまで進化するのか、今後がますます楽しみですね。
PROFILE おおくぼ・ひろもと●1967年2月1日生まれ。茨城県出身。水戸商高から85年ドラフト1位で西武に入団。トレードで
巨人入りした92年に15本塁打。95年現役引退。野球解説者やタレントを経て、2008年に西武コーチに就任し日本一に貢献。12年からは
楽天打撃コーチ、二軍監督を経て15年に一軍監督に就任した。15年限りで辞任し、今年から野球解説者をこなしながら新橋に居酒屋「肉蔵でーぶ」を経営している。