
5月14日に一軍デビューした巨人の吉川尚輝。試合中には井端弘和内野守備走塁コーチからセカンド守備についてのアドバイスを受けていた
あるスカウトが言っていた。
「まさか、源田(壮亮)がここまで打つとは思ってなかったでしょう。
西武さんもそうだったと思いますよ」
西武さん、と言うのだから、これはつまり、ライオンズ以外の球団のスカウトの嘆きなのだが、去年のドラフト前、二遊間を守れる内野手に関しては各球団とも、そのスカウト曰く「源田ではなく、あの2人が抜けていた」という評価だったはずだ。あの2人とは中京学院大の吉川尚輝と日大の
京田陽太である。吉川はジャイアンツが1位指名。京田はウエーバー順で2番目だったドラゴンズが2位で指名した。やんちゃな性格ながら抜群のセンスで華麗なプレーを見せる吉川と、生真面目で努力を惜しまず、堅実なプレーを身上とする京田。この指名順は、甲乙つけがたかった二人の事前の評価からすれば、不思議はなかったと言える。
源田の名前が挙がったのはその先の3位。開幕すればそうした評価がどうだったのかの答え合わせが始まる。もちろん一年だけで正解が導き出されるはずもないが、今年のように源田と京田が派手に活躍すると、吉川はどうしたのかという話になる。ましてジャイアンツのドラ1ともなれば、スカウトの目はどうなんだとかジャイアンツは育てられないとか、気の早い批判が飛び交ったりもする。
京田はオープン戦の全試合に出場、課題とされたバッティングでもしり上がりに評価を高め、ドラゴンズでは
福留孝介以来という、新人内野手として18年ぶりの開幕スタメンの座を勝ち取った。4月の終わりまでは打率が2割を下回り、
堂上直倫との併用が続いたものの、5月10日からはスタメンに定着。5月、6月と3割2分を越える打率を残し、8月17日にはドラゴンズの新人としては
立浪和義以来、29年ぶりとなるシーズン20個目の盗塁も決めた。
源田の活躍もめざましい。こちらもライオンズの新人としては
石毛宏典以来、36年ぶりにショートの開幕スタメンにその名を連ねた。以降、8月を終えても依然として全試合でフルイニング出場を続け、去年、7人もの名前が入れ替わったライオンズのショートのポジションを埋めてみせた。盗塁では
西川遥輝とマッチレースを続け、安打数ではペナントレース一カ月余りを残して石毛の球団新人記録(127安打)を軽々と越える勢いだ。
では、吉川尚輝はどうか。
8月を終えたところで一軍での出場は3試合、6打席に立ってノーヒット。ケガでキャンプから出遅れ、開幕一軍を逃した吉川尚は5月上旬、二軍で打率.187ながら
コールアップされた。しかし一軍でのスタメンは1試合だけ。守りにミスもあり、程なく二軍へ戻された。その後、ファームでは野性味を感じさせるセンス抜群の守りを披露。課題だったバッティングでも、東京ドームの二軍戦でインハイをライトスタンドまで弾き返してみせるなど、ファームの中では探さなくとも背番号0が勝手に目に飛び込んでくるという、際立った存在感を発揮している。
再び、冒頭のスカウトの言葉を借りれば、「ルーキーの力を引き出すためには一軍で使い続けるしかない」。育てながら勝つのが難しいのは分かる。育てるということは犠牲を払うことであり、発展途上の選手のミスに目をつぶることだからだ。しかし、果たしてその命題はジャイアンツだけに課せられたものなのだろうか。今どき、育てることが優先されるから今年は勝たなくてもいい、などと思っているチームのファンはいない。ジャイアンツに限らず、どのチームも育てながら、それでも勝とうとしているのではないか。
一つ、イメージがある。
崖っぷちの今のジャイアンツだからこそ、吉川尚を育て、しかもCS進出を叶える一軍での起用法があるのではないかと思うのだ。それは、オールスター以降、
阿部慎之助、
ケーシー・マギー、
坂本勇人、
村田修一で固定されているジャイアンツの内野に吉川尚を入れ、順番に誰か一人を休ませるというオーダーを組むことだ。ベテランのレギュラー陣は休むことによってリフレッシュされ、ルーキーの吉川尚は緊張感あふれる一軍のCS争いの最中、実戦の舞台を踏むことでかけがえのない経験値を積み重ねることができる。そして、吉川尚は十分、その段階に来ているはずだ。何しろ源田、京田がこれだけの結果を残しているのだから――。
文=石田雄太 写真=BBM