
5回一死一、二塁で一走・坂本と重盗を決めた二走・秋山
やるべきことを当たり前に、かつ確実に遂行する。侍ジャパンのあるべき姿、日本らしさを、
秋山翔吾、
田中広輔があらためて教えてくれた。
3月1日、福岡・ヤフオクドームにCPBL選抜を迎えて行われた壮行試合の第2戦でのことだ。前日の第1戦を5対8と落としたものの、この試合では相手のミスにも乗じ、9対1と快勝。遅ればせながら2017年の初勝利を飾っている。
日本のエース・
菅野智之、WBC本番の1次ラウンド第1戦(キューバ戦)先発が予想される
石川歩(この日は2番手で登板)の好投もあったが、投手力はそもそもの日本のストロングポイントだ。投手陣が耐え、いかに攻撃陣が1点を奪うかが大会を通じての焦点。そこで秋山、田中である。
まずは1対0で迎えた5回表、一死一、二塁の場面だ。右前打で出塁していた二走・秋山が四番・
筒香嘉智の2球目に重盗(一走は三番・
坂本勇人)を成功させる。前日の試合でも適時打を放っている筒香の打席だ。自重する選択肢もあったが、「国際大会や良い投手が相手だと、単に打つだけでは簡単には点が入らない」とスタートをためらわなかった。
もちろん、闇雲に走ったわけではない。この回までに相手バッテリーの特徴を把握しており、「根拠があれば成功する確率が高いと思う」という確信を持っての判断。結果、筒香の一塁失策の間にホームを踏むのだが、一、二塁のままの状況ならば、相手一塁手の失策はなかっただろうし、併殺の可能性すらあった。サインはグ
リーンライト。ベンチではなく、秋山個人の判断による勝負をかけた一手だったわけだ。

6回無死一塁、7回無死一、二塁でいずれも右前打を放ちチャンスを拡大した田中
続く6回は無死一塁の場面。打席に立った八番の田中は、外角高めの140キロのストレートを強引に引っ張って右前へ。続く7回にも無死一、二塁で6球目のストレートを同じく引っ張ることで一、二塁間を破っている。これらのケースでは併殺を防ぐ意味でも、一走の背後に打球を転がすのがセオリー。
小久保裕紀監督も「引っ張れる球を待って打つのは、
広島でやっている野球だなと感じました」と田中の判断を称えた。
過去2度世界を制した日本の野球はスモールベースボールと呼ばれ、世界に称賛された。それは決して犠牲バントを多用するだけの野球ではない。ベンチからのサインに動かされるのではなく、各自が状況を判断し、最善の手を打つこと。まさにこの日、秋山や田中が体現したことだ。果たして何人の侍たちがこの答えに気付いただろうか。
文=坂本匠 写真=小山真司