
「目指しているのは日本一」と志が高い正木
試合会場となった保土ヶ谷球場は、朝から強風が吹き荒れていた。4月15日、慶應高・森林貴彦監督は光陵高とのゲーム前(2回戦)から「当然ですが、フライでも全力疾走、守りでは自分しかフィールドにいないつもりで」と、風対策の指示を出していた。
その自然現象を味方にしたのが、プロ注目の四番・
正木智也だった。
直前の練習試合まで大不振。第1打席も空振り三振と、不調を脱せずにいた。しかし、一流選手こそ、修正能力が高い。「内角だとヘッドが出て来ないので、トップを深く取るようにした」。第2打席では、インコースのスライダーを強振。高く舞い上がった打球は、そのまま左翼スタンドへと吸い込まれていった。
「レフトフライとホームランでは気持ちの持ちようが全然、違う」
森林監督は試合後「あれは風!」と言ったが、野球選手とは、調子が上がらないときは、内容よりもまず、結果が欲しいと言われる。正木本人としてみれば、きっかけをつかむには、最高のスタンドインだった。
高校通算38号。この日、東京都大会準々決勝で早実・
清宮幸太郎が80、81号を連発したことを報道陣から伝え聞いたが「知らなかった。意識はしていません」と淡々と話した。
取材冒頭で「あれは風!」と言った森林監督も、終盤に大きく方向転換する。この初戦、慶應高は10対0の6回
コールドで快勝したとはいえ、相手のミスにも助けられ「トーナメントですから、次に勝ち進めたことが収穫」と評価は手厳しかった。だからこそ、主砲の一発はチームとしても大きったようで「まさに神風!(笑)」と、コメントを修正している。
この冬場はチームとして、練習中に「おにぎり6個」をノルマに肉体改造。身長が1センチ伸び(182センチ)、体重も5キロ増(85キロ)と一段とたくましくなった。
昨秋は関東大会8強。慶應高は関東5位の評価だったが、東京2位・日大三高との比較検討で下回り、最後の1枠(関東・東京は6校)だったセンバツ出場を逃した。
大阪桐蔭高と履正社高との決勝をテレビ観戦し「バッティングのレベルが違う」と痛感し、「あそこに勝たないといけない。目指しているのは日本一なので」と、夏は神奈川制覇も通過点と言わんばかりに、と力強かった。
「数をこなすしかない。体も大きくして『これで打てる!』と自信をつけた上で、夏を迎えたいと思います」
練習の虫。正木は毎日、納得するまでバットを振り続ける。
文=岡本朋祐 写真=BBM