
決勝3ランを放った中田を迎える栗山監督の表情に気持ちが表れている
敵地で受けるヒーローインタビューで「自分では決められないと思ったので、後ろにつなぐ意識でした」と語った。4月27日の
ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)、2対2で迎えた10回表に決勝の1号3ランを放った
日本ハム・
中田翔である。
言葉と実際のスイングはかけ離れていた。二死一、二塁でマウンドには
森唯斗。初球、抜けて真ん中に入ってきたフォークを体勢を崩すほどのフルスイングでファウルした。そして1-1からの3球目のカーブを左翼テラス席に運んだ。
自身の持ち味であるフルスイングを貫く理由があったはずだ。中田の前の三番を打つ、
近藤健介がフルカウントから敬遠気味に歩かされた。フルカウントになる前の局面では、2-2から一走の
松本剛が二盗に成功していた。
日本ハムベンチはなぜこのタイミングで一走の松本を走らせたか。二塁に走者が進めば、一打同点の局面でその時点で打率.457、得点圏打率にいたっては.591を誇る近藤が歩かされるのは当然。中田はその打席まで打率.174の打者である。
普通に考えれば、サインで一塁に走者をとどめ、走者が自動でスタートを切るフルカウントまで待って近藤の一打を期待するのがベンチの採るべき策であるはず。そう考えると、栗山監督はあえて中田で勝負させる道筋をつけたように思えてならない。
「四番は翔。三冠王だって普通に取れる選手だと思っている」と中田への信頼を崩さない栗山監督。その胸中を推し量る四番であれば、求められるのは試合を決める一発。だからこそのフルスイングだったのだ。
中田のアーチを見届けた後の指揮官の歓喜が印象的だ。思い描いたストーリーどおりの結末だったことを感じさせる。
文=菊池仁志 写真=湯浅芳昭