最下位に沈んだ昨季終了後。
福良淳一監督にインタビューを行った際、語気を強めて発していた言葉が〝我慢〟だった。
「今はとにかく我慢のとき。いつか、この我慢が実を結ぶと信じて」
一口に〝監督〟と言っても、その仕事は多岐にわたる。指導や育成に加え、選手起用にゲーム中の采配。さらにはナインを一つにまとめる統率力も求められる。むろん、結果がすべての世界だ。勝敗が〝監督の評価〟を決定づける。とはいえ、チーム状態の浮き沈みは避けられない。だからこそ、チーム状態が悪化した際に、いかに好転させるかが最も手腕が問われるもの。それは何も采配面だけではない。
今春キャンプで第1クールから紅白戦を組み込んだ福良監督。チームプレーに重きを置き、選手たちの意識革命をうながした。掲げる〝スキのない野球〟の徹底へ。バントミスを犯した選手に約5時間の練習を課し〝鬼の福良〟と話題を呼んだが、当の指揮官は周囲の反応を笑い飛ばしていた。
「別に怒ってはいません(笑)。当たり前のことを言って、当たり前のことをやっているだけ(笑)」
確かに厳しさはあったが〝鬼〟の面は見えなかった。それどころか、自ら選手に歩みより、密にコミュニケーションを取る姿を頻繁に目にした。
安達了一が特打を行えば、安達のバットを手に取り、重さや長さを確認してから打撃のアドバイスを送る。駿太がスイングをしながら首をかしげていると〝考え過ぎるな〟と言わんばかりに「カッコいいリストバンドしてるじゃないか。それなら打てる」と冗談を飛ばす。真摯に選手と向き合う指揮官がいた。
昨季はこんなことも。野手で唯一、一軍出場がなかった
吉田雄人を指揮官が呼び出し、未昇格の意図を明かしたという。指揮官の気遣いだった。それを見た駿太は「選手の気持ちを第一に考える方。だから頑張らないといけないんです」と熱っぽく語る。
指揮官の姿勢は今季も変わらない。ドラ1右腕の
山岡泰輔がプロ初先発で6回まで無失点も、7回に逆転3ランを浴びて降板。すると、すぐに山岡の下へ向かい「良く投げた」と労いの言葉を送った。さらにプロ7年目の宮﨑祐樹はこんなことを言っている。
「僕は積極的に打ちにいくタイプ。そりゃあ、振るのが怖くなるときもありますよ。そんなとき試合前に福良さんが『どんどんいっていい。積極性がなくなったらダメだから』と言ってくれた。だから迷わず振れるんです」
試合に負ければ、選手起用や采配に対する批判的な意見や心無い罵声が飛び交うこともある。周囲を見返すには結果を出すしかない。そのために指揮官は選手と向き合い、チームを一つにして前を向かせる。我慢の先を信じるからこそ〝監督の仕事〟は試合だけにとどまらない。
文=鶴田成秀 写真=佐藤真一