
5月17日のヤクルト戦(東京ドーム)、「七番・二塁」で初スタメンの吉川。打撃で結果が出なかったが、守備は無難にこなした
巨人とは「勝利」が宿命のチームである。就任2年目・
高橋由伸監督も、球団上層部から3年ぶりのVを「厳命」されているはずだろうから、「結果」を求めるのは百も承知。
しかし、ここで「我慢」してほしい。ルーキー・
吉川尚輝(中京学院大)の起用である。
1月の新人合同自主トレから「コンディション不良」「体力不足」により出遅れたが、5月に入ってようやく一軍デビューを果たした。
大卒野手でドラフト1位の「即戦力」とはいえ、補強した球団サイドも〝想定内〟だったことが想像される。担当スカウトは入念に調査を進めているもので、当然「体力不足」も把握していたはずあり、入団後も担当コーチらへ現状報告をしていたことだろう。
なぜ、「想定内」なのかと言えば、中京学院大は良い意味で「自由な雰囲気」だからだ。専用グラウンドがなく、練習場を転々。部員同士で下宿先から乗り合いをして集合する。しかも、練習よりアルバイトが優先。生活費、用具費などをねん出するための措置である。
吉川も約2年間は学校、練習、アルバイトの3本柱を両立。しかし、大学2年11月の大学日本代表合宿への参加を機にアルバイトをやめ、その時間をトレーニングに割くようにした。つまり、本気でプロを目指すようになったのだ。
攻守走3拍子そろうポテンシャルは誰もが認めるところではあるが、ほかの大学生と比べ、絶対的な練習量が不足していたのは明らかだった。
だからこそ、吉川のプロにおける「スロースタート」にも、決して驚くことはなかった。地道に慣れていけば良いと思っていた。
そして訪れた一軍デビュー。現状は戸惑いを隠せないようだが、それも時間の問題だ。プロだから「結果」がすべてかもしれないが、失敗を恐れず、吉川らしい積極果敢なプレースタイルだけは見失わないでほしい。
吉川の同世代のライバルである
中日・
京田陽太(日大)は開幕から遊撃に定着している。「課題は打撃」と言われたが、経験を積むにつれて、順応しているように映る。吉川にとって気になる存在であり、京田同様、多くの「場数」が自信となるのは間違いない。
巨人は昨年のドラフトで創価大・
田中正義、桜美林大・
佐々木千隼を1位入札抽選で外し、3度目で吉川を指名した。あえて、投手にこだわるのではなく、内野手に切り替えた補強戦略に、巨人の吉川への期待が感じ取れる。
「育成」と「勝利」の両立。高橋監督には
小林誠司を「侍ジャパン正捕手」に育てた実績がある。吉川も小林と共通した「イケメン」という武器もある。人気商売のプロ野球にあって、多少の我慢をしてでも、起用をし続ける価値がある「次世代のスター候補」なのだ。
文=岡本朋祐 写真=小山真司 ※吉川尚輝選手は5月19日に登録抹消となりました