
一塁ベース上で歓声に応える長嶋
プロ野球の歴史の中で、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は5月25日だ。
中日・
荒木雅博を筆頭に、今季は「2000安打」へのチャレンジャーがたくさんいる。名球会の存在もあり、一流打者の基準として定着している数字だ。
5月25日は歴代では一番の大物と言っていいだろう。
巨人・
長嶋茂雄の2000安打達成日である。なお名球会結成は1978年7月、この時点ではまだ存在していない。
時代はV9真っただ中、71年だった。神宮球場の
ヤクルト─巨人戦は満員の観衆で埋めつくされた。
4対2と巨人リードで迎えた8回表。この日、無安打だった長嶋は、ヤクルト・浅野啓示が投げた初球をとらえ、センター前に運ぶ。大観衆は総立ちで声援を送り、長嶋は一塁ベース上でヘルメットを高々と上げ、それに応えた。プロ入り14年目、1708試合目、史上5人目の2000安打達成だ。
ただし、試合はその後追いつかれ、4対5とサヨナラ負けになっているだけに、試合後の長嶋の表情は、やや微妙だった。
「勝てば良かったんだけどね(苦笑)。きょうは早いとこ打ってお客さんに喜んでもらおうと思って、かえって焦っちゃった。その前の3打席は全部ボール球に手を出したからね。出た瞬間はホッとしたよ」
この年、長嶋は打率.320で6度目の首位打者、5度目のMVPに輝いている。74年の引退までに2471安打まで伸ばしたが、これが最後の打撃タイトル、最後の打率3割台でもあった。
「選手長嶋」が、まばゆい真夏の太陽のような輝きを見せた、最後のシーズンとも言えるだろう。
写真=BBM