
6月25日のロッテ戦(京セラドーム)で8回のピンチを無失点で抑えると渾身のガッツポーズ(左)。今季3勝目を挙げ、試合後には“笑顔”でファンの声援に応えた
昨季途中に、ふと漏れた本音が、プロの世界の厳しさを感じさせた。
「打者の対応が変わってきたんっすよ。空振りを取れたのがファウルになったり、今まで振ってきたコースも見極められるようになって。正直、キツイっす。でも、その中でどうにかしないとアカン」
シュート回転する独特の直球にスライダー、シュートとボールを巧みに左右へ振り分けて打者を翻ろう。同級生で親交の深い
楽天・
則本昂大は「打者の手元、ギリギリで曲がるから、あれはレーダーでも感知できない」と、
オリックス・
西勇輝が投じるボールを“ステルスボール”と評する。
その投球術を武器にプロ3年目の2011年に初の2ケタ10勝(7敗)を挙げると、14、15年も2ケタ勝利を達成し、日本代表にも名を連ねた。が、16年シーズン序盤は、試合序盤に連打でビックイニングを献上することが多々。5試合に先発した4月を終え、防御率は7.62と、もがき苦しんでいた中で漏れた本音が冒頭のコメントだった。
16年は最終的にチームトップの10勝をマークも12敗を喫し、「貯金を作れるようになりたい」と反省の弁が口を突いた。そして迎えた今季は、キャンプから闘志を前面に押し出す。ストレートだけで200球近い投げ込みを敢行。マメがつぶれて打ち切りになるほど、徹底的に直球を投げ続けた。
「球数は体力づくりの面もありますけど、まずは真っすぐをね。力強くというか、感覚をつかんでから、変化球を投げていきたい。ケガもないし、それが何より順調な証拠ですよ。今年はやらないと」
練習後に笑顔を見せるなど、晴れやかな表情が今季に懸ける思いを象徴していた。開幕しても闘志を前面に。今季2度目の先発となった4月9日の
日本ハム戦(京セラドーム)では、154球の熱投で今季1勝目を完封で飾った。次回登板の同22日ロッテ戦(ZOZOマリン)では8回3失点で2勝目を挙げ、幸先の良いスタート――と思われたが、以降は勝利から遠ざかっていく。
好投しても援護がなければ自身に“勝ち”が付かない投手の難しさもあるが、何よりチームを勝利に導けず。5月13日には不調と故障で二軍落ち。だが、決して腐ることなく調整を続け、6月2日に一軍昇格を果たすと、6月25日のロッテ戦(京セラドーム)で2カ月ぶりの今季3勝目を手に。8回無死一、三塁のピンチを無失点で切り抜けた際に見せた渾身のガッツポーズからは、白星を目指す執念がにじみ出ていた。
いまやエース・
金子千尋に次ぐ働きが求められる立場。求められるのは“勝つこと”ではなく“勝ち続けること”。だが、相手は打ち崩すべく、データや傾向、クセは収集済み。だからこそ、1つ勝つことも容易ではなく、手にした勝利は格別の喜びがあるのだろう。
勝利を手にした後に見せる“西スマイル”――。その表情を見ていると、プロの厳しさも透けて見えてくる。
文=鶴田成秀 写真=佐藤真一