読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は“足”のスペシャリスト、元巨人の鈴木尚広氏だ。 Q.「走塁にスランプはない」と監督やコーチは言いますが、本当ですか?(東京都・14歳)
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現役時代、快足を誇った鈴木氏だが走塁にもスランプはあると言う
A.走塁(足)にもスランプはあります。スランプとは感覚のズレがある状態
確かに昔からよく言われてきた言葉ですね。現役時代、走塁面で結果を求められ、仕事としてきた私の場合に当てはめて話をしますが、結論から先に言うと、走塁(足)にもスランプはあります。少なくとも僕はそう感じていました。ではなぜ「スランプはない」と言われてきたのか。それは野球の走塁がタイムを競う競技ではないので、単純にそう言いやすいのだと思いますし、足が速い人は何があっても速いという思い込み、勘違いもあるのではないでしょうか。
質問の方は中学生ですが、自分の経験を思い返しながら考えてみてください。例えば、盗塁のスタートを切ろうと思いながら、切れなかったとき、また、あなたがランナーで、キャッチャーがショートバウンドを弾いたり、打球判断で次の塁が狙えそうなのに一歩が出なかったりなどの経験があると思いますが、これも私はスランプだと思います。頭では分かっているのに、動けない。感覚のズレがある状態ですね。
バッティングに置き換えてみると分かりやすいですよ。自分がとらえたと思ってスイングしたのに、凡打を繰り返す。これが一般的なスランプなわけですが、これはボールに対してバットを当てる感覚がどこかズレてしまっている状態。ズレのないときは甘いボールは逃さなかったのに、少しズレただけでヒットが生まれない。先ほどの走塁と同じですよね。
「足が速い人は、何があっても速いと勘違いされている」と前述しましたが、確かに速いことには変わりはないのですが、ズレがあるなど、状態が良くないときは、どんなに足が速かろうが、細部に問題が生じます。プロはゼロコンマ何秒の世界で勝負をしていますし、走塁は100パーセントが求められていますから、わずかな誤差が生じても命取りになりかねません。
スランプ脱出法は、例えば、盗塁の場合、走らなくてもいいから、毎回偽走することが大事です。フェイクスタートですね。そうすると、スタートする意識ではないですが、スタートを切る意識だけはできるんです。これを繰り返すことで、スランプで走れなかったのが、だんだんと間合いがあってきて最終的に、行ける自信と勇気がわいてきますよ。
写真=BBM ●鈴木尚広(すずき・たかひろ) 1978年4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から97年ドラフト4位で巨人入団。走塁のスペシャリストで、代走での通算盗塁数132は日本記録である。16年現役引退。現役生活20年の通算成績は1130試合出場、打率.265、10本塁打、75打点、228盗塁。