
敗れはしたが、得点に絡む活躍を見せ、貴重な経験を積んだ万波
2015年秋から名門・横浜(神奈川)を率いる平田徹監督は「我慢」の指揮官である。
右の大砲・
万波中正(2年)を、どんなに調子が悪くても決して先発から外さなかった。聞けば「大きな選手(190センチ89キロ)というのは時間がかかる。大きく育てていきたい」との言葉を繰り返し、長い目で見てきた。
今夏の県大会も打率.179、11三振とクリーンアップとしては寂しい数字が並んだ。それでもなお、起用する。外側から見ている身としては、不協和音が出ないか心配になるほどだ。
理由は明確。チーム一の努力家で、その練習量は誰もが認めるところ。フリー打撃では規格外の飛距離を連発し、あとは実戦での結果を待つのみ。明るい性格の万波はムードメーカーでもあり、背番号9が打てばチームは一気に浮上する。だからこそ、平田監督は起用にこだわってきたのだ。
昨秋の新チーム結成以降、万波は投手としての登板機会も増えており、今夏の県大会も2試合に登板し、いつでも救援できるようにスタンバイしてきた。
東海大相模との県大会決勝は5打数無安打、5三振と精彩を欠いた。高めのボール球に手を出す悪癖を修正するため、甲子園までに、顔がブレないようにする反復練習を繰り返してきた。
「いかに我慢できるか」
「我慢」して起用する平田監督と、選球眼を課題に挙げる万波も「我慢」をキーワードに挙げた。
昨夏の甲子園は1年生でベンチ入りしながら、2試合で出場機会がなかった。迎えた今夏、甲子園デビュー戦。秀岳館(熊本)との1回戦で五番・万波は2打数1安打。2度にわたり得点に絡む活躍を見せ、課題だったボール球に手を出さず、四球も選んでいる。チームは初戦敗退も万波は前を向いた。
「やってきたことが実った」
この日も救援マウンドに上がったが、新チームでも投打にわたる「二刀流」としての働きが求められる。
「左は板川(佳矢、2年)、及川(雅貴、1年)と2人が残りますが、監督も右で力のある投手が必要とするはず。ピッチャーの練習も力を入れていきたい」
来年は春のセンバツが90回、夏の選手権が100回記念大会。万波は全国制覇を遂げるために横浜へ入学した。平田監督の起用に恩返しする、高校ラストイヤーをすぐに始動させる。
文=岡本朋祐 写真=BBM