
三木にとっては痛すぎる死球となった
「レギュラーをつかみかけているので、離したくないという気持ちは強いですね」
そう言っていた矢先のアクシデントだった。8月24日、ZOZOマリンでの
楽天戦。4回の打席だった。
安楽智大が投じた145キロのストレートが、スイングに行った
ロッテ・
三木亮の右手を直撃。右手親指と中指のはく離骨折で全治3~4週間という診断だった。
鈴木大地の二塁への電撃コンバートにより春季キャンプでぼっ発した遊撃のレギュラー争い。その中に名を連ねてはいたが、周囲の視線は15年のドラ1・
中村奨吾と16年のドラ1・
平沢大河の2人に注がれていた。
スポーツニュースを見ても、画面に映し出されるのは中村と平沢のみ。遊撃争いは一騎打ちであるかのように報じられていた。「その練習、俺もやっててんけどな……」とぼやくこともあったが、腐ることなく、自分のやるべきことに励み続けた。
守備のスペシャリスト。試合終盤の守備固めに不可欠な存在として昨季は75試合の出場機会をつかんだ。「(チームに)遊撃をちゃんと守れる選手がいないからチャンスはある」という言葉からは、守備に関してはドラ1コンビを向こうに回しても勝負になるという自信が漂う。
そこに打撃面での開眼が加わった。左足を上げていた打撃フォームをすり足にしたことで、目線のブレがなくなり、確実性が向上。持ち前のパンチ力が生きるようになり、打撃不振に苦しむ中村と平沢を尻目に、5月半ばを過ぎるころには遊撃のファーストチョイスになっていく。
「信頼されること」。その“信頼”も手に入れかけていた。すでに手に入れていたと言ってもいいのかもしれない。三木の負傷離脱を聞いた
伊東勤監督は「せっかく頑張ってきたのに……」と嘆いていたのだから。
今季中の復帰は簡単ではないだろう。来季は再びイチからのスタートになるかもしれない。それでも、この男が注目度という点で蚊帳の外に置かれることはないはずだ。本当の意味での“横並び”からのスタート。3番手からはい上がっていった今季に比べれば、ゴールまでの距離は縮まっている。それこそが、今季の三木が自らの力でつかんだ立ち位置なのだ。
文=杉浦多夢 写真=高塩 隆