
王と対峙する小林。これは「一本足」のようだ
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は9月5日だ。
1979年は前年オフ、
江川卓と
巨人の“空白の1日騒動”の余波、というよりは激流の真っただ中で始まった。江川を国民的悪役とすれば、一気に株を上げたのが、新人・江川とのトレードをすんなり承諾し、
阪神へと移籍した
小林繁だ。
モデルのような容姿で、もともと女性人気の高い選手だったが、入団会見でのさわやかな笑顔と受け答えもあり、人気が爆発した。
ただ、この男、甘いマスクの奥底、芯に秘めた負けん気にはすさまじいものがある。独特のサイドハンドから打者をグイグイ攻め、特に巨人戦は目の色が変わった。
4月10日、初対決での勝利に始まり、なんと開幕から対巨人7連勝。アンチ巨人ファンの喝采を一身に集め、9月5日、9回目の巨人戦マウンドに立つ(7月8日のみ勝ち負けなし)。
舞台は、かつての敵地で、いまは本拠地の甲子園だ。阪神打線は巨人投手陣に初回から襲い掛かり、一挙4点、2回にも6点で早々に勝負を決めた。小林は8回に崩れ、5失点で途中降板となったが、13対5の大勝。小林は対巨人8連勝で、シーズン17勝目を挙げた。
この連勝の中で小林が印象に残っているのは、実は、唯一勝ち星がつかなかった7月8日の試合だという。
小林にまったくタイミングが合わなかった
王貞治が一本足を捨て、通常のフォームで打席に立ったのだ。2安打は許すも「あの王さんが自分のスタイルを変えた。それだけでうれしかったですね。打たれましたが、勝った、と思いました」と小林。最終的には、この年の小林は22勝9敗1Sで最多勝、沢村賞を獲得し、対して江川は、開幕からしばらく謹慎期間があったこともあり、9勝10敗で終わっている。
写真=BBM