4点ビハインドから一転

2000年、長嶋巨人は劇的な形でリーグ優勝を飾った
80年を超える球史の中でドラマチックな優勝決定シーンは数々あるが、20世紀最後のシーズンとなった2000年、世紀末にふさわしいド派手な優勝を長嶋巨人が飾った。
優勝へのマジック1で迎えた9月24日、東京ドームでの
中日戦。超満員の観客が詰めかけたが巨人は
前田幸長の前に打線が完全に沈黙。0対4のまま9回表を終えた。
おそらく巨人の選手でさえ、「今日はもう優勝はないだろう」と思っていたはずだ。しかし、最後の攻撃。先頭の
元木大介がライト前ヒット、さらに三番・
高橋由伸が同じくライト前で続くと、中日は守護神・
ギャラードへスイッチした。だが、巨人打線の勢いは止まらず、四番・
松井秀喜がふたたびライト前に運び、無死満塁。わずか5分ほど前までの意気消沈ムードがウソのように沸き、東京ドームに異様なまでの熱気が帯び始める。
D.
マルティネスが三振の後、
江藤智が打席へ。変化球が2球外れ、カウントは2ボール0ストライク。巨人ファンの歓声が地鳴りのように響く。次の1球、ギャラードが投げ込んだストレートに江藤のバットが一閃。江藤のシーズン3度目の満塁弾で巨人は土壇場で追いついた。
球場の興奮冷めやらぬ中、打席に入ったのは
二岡智宏。カウント0ストライク1ボールからの外角高めのスライダーだった。得意の右打ちで、右翼席へ飛び込むサヨナラ優勝決定弾。普段はおとなしい男が、絶叫して飛びはねた。
「この感動は言葉では表せません。野球は生きています」と長嶋監督も興奮した面持ちだったが、まさに野球の面白さを体現した優勝決定試合だった。
「満塁本塁打を打った江藤さんのほうがすごい」

優勝決定サヨナラ弾を放ち、全身で喜びを表す二岡
後年、この劇的な一打に関して二岡にインタビューしたことがあるが、以下のように語っていた。
「江藤さんが打席に入ったとき、変にヒットでつないでほしくないな、と思っていましたね。単打よりも、それだったら例えば二塁打を打ってもらって2点くらい入った状況のほうが気楽に打席に入ることができるな、と。
同点満塁弾が出た後も、冷静に打席へ向かうことができました。感触は本当に覚えていません。でも、打った瞬間は『行った!』と思って2、3度ガッツポーズをしたんですけど、そのあとに『あれ、本当に本塁打になったかな?』と不安な気持ちが出てきて。スタンド方向を見て、ちょっと確認した記憶がありますね」
――当時のコメントを見てみると「みんなスライダーと言うけど、僕は真っすぐだと思うんですよね」と言っていましたが、実際は?
「あとで映像とかできちんと見てみたら、打ったボールはやっぱりスライダーでしたね(笑)」
――打った球種が判別できないほどですから、打った感触をまったく覚えていないというのもうなずけます。それと、また当時のコメントからですが、「すみません、狙っていました」とも言っていましたが、果たして、それは本当のことだったのですか。
「本塁打を狙っていたわけではないんですけど。ノリで言ってしまいました(笑)。僕はこういう場面は嫌いじゃないんですけど、この試合に関していうと周囲の雰囲気に乗せられて打ったというのはありますね。ファンの声援とかも、本当にものすごかったですからね。でも、僕よりは、満塁本塁打を打った江藤さんのほうがすごいと思いますよ」
本当にうれしそうに、当時のことを振り返る二岡の姿が印象に残っている。
今も色あせない珠玉の優勝決定シーン。現在、
広島もマジック1と優勝目前だが、果たして、どのような形で連覇を成し遂げるか、非常に楽しみだ。
文=小林光男 写真=BBM