2年連続でセ・リーグを制覇した広島。シーズン当初から安定した力を発揮したが、投手のMVPと言えるのが薮田和樹であろう。3年目の今季、大ブレークを果たした右腕。広島が頂点に立った大きな原動力となった。 先発、中継ぎにフル回転

優勝までにチームトップの14勝をマークした薮田
プロ2年間でわずか4勝の男が救世主として大きく羽ばたいた。薮田和樹、25歳。開幕当初はビハインドの展開で登板する中継ぎだった。だが、クローザーの
中崎翔太が離脱し、
今村猛の抑え転向に伴って7回のセットアッパーとしてフル回転。「ストライクゾーンで勝負する」と、150キロを超える直球、フォークに近いツーシームを打者に臆せず投げ込んで役割を全うした。
転機はまたしてもチームのアクシデントだった。5月23日の
ヤクルト戦(マツダ広島)、先発の
野村祐輔が腰に違和感を訴え、3回で降板すると薮田に声がかかった。3回無失点で3勝目をマーク。翌週の30日、
西武戦(メットライフ)から先発ローテーションに加わり、白星を積み重ねていった。
8月12日の
巨人戦(マツダ広島)では相手エースの
菅野智之に投げ勝ち、プロ初完封勝利をマーク。
「今まで相手ピッチャーはあまり意識していなかったんですけど、菅野さんはさすがに意識していましたね。『点を取られたら負ける』と考えていました」
この試合、終盤の7、8、9回に走者を出しながら、いずれも併殺に仕留めてピンチの芽を摘んだが、「欲しいと思うところで取ることができました。やっぱりダブルプレーは大きい。1球で2つのアウトが取れますから」と自らの求めるピッチングを再確認することもできた。
中継ぎの経験も役立っている。
「終盤にランナーを背負ってからのピッチングは、その経験が生きていると思います。この回で終わってもいいという意識で投げることができている。それが『ギアが上がった』と周りから見える投球につながっているのかもしれません」
もちろん、昨季限りで引退した
黒田博樹の影響も大きい。
「影響というか、本当に黒田さんのようになりたいという気持ちです。打席で簡単に終わらないところであったり、投げるからには1試合を投げたいという姿勢であったり、試合に向けた準備もそうです。すべてがお手本でした」
9月18日現在、14勝をマーク。ハーラーダービートップの菅野とは1勝差で最多勝の可能性は十分にある。しかし、薮田がおごることはない。
「勝ち星は野手の方に助けてもらった結果だと思っています。だから野手から見られる姿は意識するようにしていますね。ベンチでグラブを投げてしまったこともあるのですが、『悔しさが出ている』と思われるのか、『何であいつ、道具に当たっているんだ』と思われるのかではまったく違います。野手の方が助けてくれるような選手になりたいと強く思っています」
リーグ連覇を成し遂げた中心にいたが、まだ挑戦は続く。昨季達成できなかった悲願の日本一へ。投手と野手がひとつになれるようなピッチングを心掛けていくだけだ。
写真=太田裕史