
明らかなボール球に手を出し、空振りするローズ
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は9月30日だ。
かつての球界には「55本の聖域」があった。1964年に
王貞治(
巨人)が打ち立てたシーズン本塁打記録だが、それが長く保持される中で、いつしか聖域化したのだ。85年に
阪神・バースが54本と迫ったときは、巨人戦で露骨な敬遠もあった。
2001年、ふたたび同じことが起こる。まず、9月24日、
西武戦(大阪ドーム)で近鉄の
タフィ・ローズが
松坂大輔からホームラン。135試合目で、ついに王の記録55本に並ぶ。
2試合置いて9月30日がダイエー戦(福岡ドーム)だった。記録保持者でもあるダイエーの王監督は、試合前に「60本を打てよ」とローズに笑顔で声をかけた。
すでに近鉄の優勝は決まっていた。
梨田昌孝監督の配慮でローズは打順一番に入る。果たして王監督の前で新記録達成はなるのか……。
結果的にはダイエーは明らかに勝負を避けた。イラ立ったローズがボール球に手を出し、2打席は凡退だったが、18球中ストライクは2球だけ。試合後、ローズは「記録を守りたいなら、それでいい」と吐き捨てた。
決してほめられたことではないが、これが近鉄との最終戦。目の前で監督の記録が抜かれるのを見たくないダイエーの選手の心境は分かる。近鉄が2試合を残していたこともあり、さほど大騒ぎにはならなかったが、王監督不在のミーティングで
若菜嘉晴バッテリーコーチが「いずれアメリカに帰る選手に記録を作らせるな」と言ったことが報道され、一気に紛糾した。翌10月1日には川島廣守コミッショナーから「アンフェア。好ましくない」と異例の声明文も出ている。
残り2試合の相手、
オリックスはローズと普通に勝負したが、気負い過ぎで不発。最後の打席はタイムを審判が気づかず、あわてて打ったセンターフライだった。
写真=BBM