
今季の経験を今後に生かしたい釜田
一度は捨てたはずだった。だが1球で再び取り戻したように感じてしまう。
楽天の
釜田佳直は7月5日の
ロッテ戦(ZOZOマリン)で自身最速を更新する154キロを出し、右ヒジ靱帯再建手術からの完全復活を印象づけた。だがこの球速が、釜田を暗いトンネルへと迷い込ませることになってしまう。
150キロを超える直球を武器に力で押す投球が持ち味だった釜田だが、2014年3月に右ヒジ靱帯再建手術を受け、スピードへのこだわりを捨てた。「打たせて取るピッチングとか、ヒジに負担がかからないような投げ方をしたい」とリハビリ中に模索。そして15年に一軍復帰すると昨年は20試合に登板するなど、順調な回復を見せていた。だが、今季は春先につまずき、一軍と二軍を行き来することに。そんな中での7月の登板だった。
「スピードはひとつのバロメーターというか体が元気な証拠だと思うので、自分自身の中でうれしいものはあったんですけど……」
結局、その後30日の試合で4回途中に降板すると、登録を抹消され、約1カ月後の8月27日の
日本ハム戦(Koboパーク宮城)でも4回途中で降板と結果はついてこなかった。
154キロが出たことで、スピードへのこだわりが再燃し、「スピードが出れば打たれないだろうと感じ過ぎてしまった」と、球速に頼るようになってしまった。だが、それは違った。
「140キロ台でも空振りを取っている投手もいるし、バッターが速いと感じるボールを投げる投手もたくさんいます。そういうところを盗んでいきたいですし、工夫すればもっともっと打ちづらいピッチャーになれるんじゃないかなと思います」
10月4日のロッテ戦(ZOZOマリン)で釜田は約1カ月半ぶりに一軍のマウンドに上がった。延長11回、三番からの好打順。安打と敬遠で一死満塁とピンチを背負うも、
高浜卓也への初球、147キロの直球でセカンドゴロの併殺とし、無失点でマウンドを降りた。四番・ペーニャからは148キロの直球で空振り三振も奪っている。球速という魔力から解放され、トンネルを抜け出す光も見えてきている。
少し時間はかかったが、目指すべき投球が明確となった背番号21。「悪くても使ってもらえる立場ではもうない」と語る6年目を終えた。来季こそ、迷うことなく結果を求めていく。
文=阿部ちはる 写真=BBM