
慶大・岩見は明大2回戦(10月8日)でリーグ記録を更新する5試合連続本塁打を放った
10月8日、明大2回戦を控えた神宮記者席の裏で、慶大・
大久保秀昭監督がこう切り出した。
「漫画のような世界だったんですよ」
手塩にかけて育ててきた、四番・
岩見雅紀(4年・比叡山高)の思い出話である。
187センチ107キロ。1浪を経て入学した当時は120キロに迫るほど“巨大化”していたという。正直、体は動かなかったが、バットを持たせれば飛距離は規格外だった。とはいえ、いくら飛ばしても、実戦は別問題。大久保監督は両手を30センチ以上広げて「こ~んなに開いていたんですよ(苦笑)」と、とんでもない空振りをしていたエピソードを明かしてくれた。
選手育成。監督はときに“出血”を伴ってでも我慢しないといけないことがある。左翼手・岩見の守備で落とした試合もある。だが、大久保監督はどんなときも起用し続けた。
使われる選手も当然、意気に感じる。岩見は最終学年で“恩返し”をするのである。
今春に自己最多5本塁打を放って通算14本塁打(歴代15位タイ)とすると、今秋は6本塁打。明大2回戦ではリーグ記録を更新する5試合連続本塁打、そして年間11本塁打でもトップタイとした。通算では歴代3位タイの20号と一気にジャンプアップしている。
見据える先は20本の早大・
岡田彰布(元
阪神ほか)、22本の法大・
田淵幸一(元
西武ほか)、そして23本でトップの慶大の先輩・
高橋由伸(現
巨人監督)といった名だたるメンバーたちだ。
しかし、岩見は「なんか、すごいじゃないですか!! 大丈夫ですかね……」と他人事のように語る。いつも謙虚であり、ある意味で庶民派の性格こそ、岩見が愛される証明だ。
慶大の残りは2カードで、最低でも4試合ある。今秋の9試合で6発の量産ぶりを見れば、リーグ新記録も射程圏内と言える。興味深いのは今季8安打のうち6本塁打という、まずあり得ない内訳である。
日本ハム・
大谷翔平が二刀流、さらに「一番・投手」「四番・投手」と既成概念を覆すサプライズを幾度も実現してきたが、岩見にも漫画の世界のような不思議な魅力が詰まっている。
文=岡本朋祐 写真=松田杏子