糸を引くようなストレートが武器

熊本工高グラウンドの脇にある歴代の甲子園出場石碑。ドラフト候補の151キロ右腕・山口は同校の大先輩である中日・荒木への思いを語っている
10月20日まで学校の試験だったが、はやる気持ちを抑えることができない。
「ずっと、クライマックスシリーズを見ていました。勉強? 赤点を取ってはまずいので、何とかやっていました(苦笑)」
要領の良さも今後、厳しい競争の世界で生きていく上では必要な要素だ。26日のドラフトを控え、熊本工高・
山口翔は「楽しみ、不安、期待……もう、待ちきれません(笑)」と、高校生らしい一面を見せてくれた。
151キロ右腕の周辺は、にわかに騒がしくなっている。多くのスカウトが1度視察しただけで惚れ込んでしまうという、糸を引くようなストレート。安田健吾監督は「ボールが指にかかった際は、だれにも打てない」と絶賛する一方で、その精度を高めることが課題だ。別の見方をすれば、それだけのノビシロがあるということ。真っすぐと同じ腕の振りで投じるスライダーなど変化球にもキレがあり、山口が目指す投手像は
楽天・
則本昂大、
日本ハム・
大谷翔平。大きな可能性を秘めた投手であることは間違いない。
今春のセンバツ甲子園は初戦敗退ながらも、ポテンシャルの高さにスカウトはクギづけ。今夏は県大会3回戦敗退だったが、評価は不変である。NPB全12球団から調査書が届いており、面談も行ってきた。1位入札の展開次第ではあるが、「将来性のある高校生投手」という補強ポイントと合致したチームが2回目、3回目で入札してくるケースが考えられる。昨年は桜美林大・
佐々木千隼(現
ロッテ)をめぐり、第2回入札(外れ1位)で5球団が競合したが、人気が集中する可能性もある。
「高い評価をしていただければありがたいですが、順位は気にしていません。入ってからがスタートライン。指名していただけるだけでも、感謝したいです」
12チームの調査書に記入する中で、プロを目指している実感が増した。「理想とするスタイル」という質問事項の欄にも「真っすぐで空振りを取れる投手」と回答。ストレートへのこだわりはかなり、強いものがある。
熊本工高と言えば、打撃の神様・
川上哲治(元
巨人監督)、
伊東勤(前ロッテ監督)、
前田智徳(元
広島)など多くの名選手を輩出してきた伝統校だ。同校OBの巨人・
藤村大介が今季限りでの引退を表明し、現役選手は2017年に2000安打を遂げた中日・
荒木雅博(安田監督と同級生)のみとなってしまった。
山口は目を輝かせて言う。
「仮に指名していただけるのならば、熊工の新たな風を吹かせたい。荒木さんと対戦したいですし、または一緒のチームになって、いろいろと勉強させていただきたい。熊工の話もしたいです」
なお、気になる同級生は「翔(しょう)」つながりで、青藍泰斗高(栃木)の151キロ右腕・
石川翔で親交もある。本格派として、刺激し合っているという。
「同じ世代には負けなくない。U-18ワールドカップ(カナダ)も応援していましたが、心の底では悔しかった。いずれは日本を代表するような投手になりたい」
写真撮影用に、熊本工高グラウンドにある歴代の甲子園出場石碑の前でのポーズをお願いした。
「良いですね!! 頑張ります!!」
尊敬する荒木先輩の前で、意気込みを新たにしていた。
文=岡本朋祐 写真=BBM