2018年に創刊60周年を迎える『週刊ベースボール』。おかげ様で、すでに通算3400号を超えているが、いま1日に1冊ずつバックナンバーを紹介していくコーナーを進行中。いつまで連載が続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永く、お付き合いいただきたい。 興味深い特集『ピッチャーを大切に〜投手起用を検討する』
今回は『1958年6月4日号』。創刊第8号で定価30円。カラーページはない。表紙は5月16日現在で13勝1敗と好調の国鉄・金田正一だ。
巻頭特集は『たよりにならない審判団〜山本の殴打事件を中心として』。山本とは“駒沢の暴れん坊”と言われた東映の中でも一番気の短い男として知られた「ケンカ八」こと
山本八郎である。
このシーズンは開幕から審判の不手際によるトラブルが相次いだようだ。ただ、文中でも「審判が選手側から非常にいじめられているということだ」とあるように、当時は選手、監督、さらには観客が、何かと言えば審判を脅すようにヤジや抗議をし、一部の審判は明らかに委縮していた。米球界のように審判の権威が確立されておらず、一方的に審判が悪いばかりではなかった。
このときの山本の事件というのは、5月10日、駒沢球場の東映─南海戦で起こった。6回裏、山本は遊ゴロで一塁アウトとなったが、一塁手の足がベースから離れていたと角田塁審に抗議。通らんとみると、そのまま角田塁審に左フックを浴びせた。当然、退場を命じられ、いったんはベンチに戻った山本だが、スタンドからの「ハチ、殴ってしまえ!」の殺気立った声にもあおられたか、ベンチから飛び出し、今度は角田塁審を殴り倒し、足で蹴ってしまう。さらに興奮した観客が次々とグラウンドに降り、一時は大混乱となった(その模様はセンターのグラビアページで紹介されている)。
ただ、カッとしやすいが、ふだんの山本は礼儀正しい人物でもあったという。冷静になった山本は「とりかえしのつかないことをしてしまった」と青い顔をし、翌朝、
岩本義行監督とともに角田塁審の自宅へ謝罪に行った。特集記事は、この事件に関するさまざまな人からの意見、角田審判の言い分などが掲載。さらには、審判の日常、アメリカの事情、審判への提言など多彩な展開。なかなか興味深い。
なお、山本にはこの後、無期限出場停止処分が下されたが、6月23日に解除されている。
第2特集が『スポットライト〜超人金田正一のすべて』だ。この中で金田の欠点のように「ノッポ」(長身。184センチ)の言葉が使われている。これは当時というより、80年代くらいまでの日本球界には「長身投手は大成しない」という説が根強かったからだ。医師の言葉としても「金田君はちょっと見ると確かにノッポではあるが、しかし生理学的に見た場合、決してノッポではない。ノッポというのは背が高く、やせていて骨の細い人を言うのであって、金田君のように筋肉が引き締まり骨の太い人はノッポどころか、ムダのない理想的な体の持ち主といいたいくらいだ」とある。
ほかに興味深かったのは『ピッチャーを大切に〜投手起用を検討する』という
楠安夫(
巨人ほかの捕手で当時は引退し、解説者)の記事だ。読んでいくと、「記者が、
阪神の田中監督が1試合に3人投手を用意しているのに驚いた」とあったり、当時は先発投手に前夜から登板を伝えることもあまりなかったらしいが、その理由が「神経質になって前夜眠れないから」。楠はアメリカのヤンキースの投手起用を例に挙げながら、場当たり的な起用で投手を酷使するなと書いている。これもまた、読み応えがある。
ここで1つお詫びを。先日人気連載として紹介した『カケヤ禍』だが、これはこちらではサブタイトルと思っていた『プロ野球騒動史』がメーンタイトルだったようで、『カケヤ禍』は前週の7回で終了。この号は『ダイレクトでとったかショートバウンドしたか』(上)となっていた。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM